乾く暇もなく(※18禁)・3

 大きく息をつきながら、すぐさま手の甲で唇を拭うカイジの首筋に、しとどに濡れてやわらかくなった白い穂先を、しげるはそっと押し付けた。
「……っ?」
 ぴくりと反応を示すカイジを見て、しげるの口端に笑みがのぼる。
 ほとんど力を込めず、膚の表面をごく軽く擽るようになぞられ、さっき傷を触られたときと明らかに違う感触に、カイジの背がゾクリと粟立った。
 風呂上がりのしげるの髪に、その質感はよく似ていた。
「それは……、そうやって使うもんじゃねえだろ……」
 ともすると声が上擦ってしまいそうになるのを懸命に御しつつカイジが嗜めると、しげるは涼しげな顔で答える。
「そう? 筆にはこういう使い方もあるって、オレは昔教わったんだけど」
「教わったって、誰にだよ……」
「秘密」と答え、しげるはカイジの膚をやわらかく撫で続ける。
 学校の教師がこんなことを教えるわけがない。おそらくはヤクザか水商売の女か、ともかく碌な大人でないことは確かだろう。
 年端もいかぬ子供にこんな怪しからんことを教える連中がいることに腹も立ったが、カイジは怒りを抑えて押し黙るしかなかった。
 下手に口を開くと、妙な声が漏れ出てしまいそうなのだ。夏休みの宿題に使うはずの筆で体を弄くられて感じてしまうなんて言語道断だと、カイジは唇を強く噛む。

 声を必死に堪えようとするその仕草が、すでに半分陥落しかかっている証なのだということを、カイジ本人だけが知らないのだった。
 しげるは内心ほくそ笑み、首筋を往復させていた穂先をゆっくりと移動させていく。
 喉仏を撫でられ、カイジは音をたてて唾を飲み込む。
 緊張を表すように大きく上下する隆起に唇を寄せたくなる衝動を我慢して、しげるは筆を動かすことに専念する。



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