時間がない(※18禁)・1 フェラチオのみ


 今日こそ、来るだろうか。

 自室で寝間着に着替えながら、カイジは思った。
 恋人である、赤木しげるのことである。

 裏麻雀の代打ちを生業とするアカギの訪れは常に不定期で、本人の気分や置かれている状況にかなり左右される。
 タイミングが合えば三日にあげずやってくるけれども、合わなければ数ヶ月に一度、来るか来ないかという場合もザラだった。
 どうやら今は後者のようで、最後に会ってから既に三ヶ月以上が経過しているというのに、一向にカイジの許へ姿を見せなかった。

 
 カイジの方から連絡を取ろうにも、アカギは携帯電話も持っていないから、離れてしまえばカイジからコンタクトをとる方法はなにもない。その上、アカギも滅多に電話などしてこないから、会いに行くことはおろか、カイジはアカギの居場所すら知ることができなかった。

 待つ一方にならざるを得ないこの関係を、カイジはいつも、もどかしく思う。
 特に、前回の逢瀬から間が開いてしまうと、切った張ったの世界の厳しさを多少なりと知っているからこそ、不安が募る。
 アカギは、強い。
 それも神懸かり的に。
 しかし死を恐れぬがあまり、己の命をあっさりと捨ててしまうようなところがあって、待つ身としてはすこしも安心することができなかった。

 それを打ち消すように、今日こそは、今日こそはと毎日思い続け、カイジはアカギを待っているのだが、今日もまた、そんな虚しい一日が過ぎ去ろうとしていた。



 時計を見て、カイジはため息をつく。
 いい加減眠らないと、バイトに差し支える。
 他のバイトの代理で、明日は早朝からなのだ。

 結局、今日も来なかったかと思いながら、玄関の方に目を向ける。
 ともすると悪い方向に向きそうになる思考を振り払うかのように、カイジは強く舌打ちをし、テレビと部屋の灯りを消す。
 そしてベッドへ向かおうとした、ちょうどその時。
 コツコツと硬質な音が、しんとした部屋に響いた。
 カイジは目を見開く。
 たっぷりと間を開けて、ドアを叩く音。
 聞き覚えのある、独特なノックの仕方。
 カイジはほとんど反射的に踵を返すと、玄関へと向かっていた。







 ドアを開けると、外の灯りに一瞬、目が眩む。
 顔を顰めて前を見れば、ずっと待ち望んでいた姿がそこにあった。
「こんばんは」
 最後に会ったときと変わらない、抑揚の乏しい声。
 カイジは懐かしさでいっぱいになりながら、目の前にいる男を見た。
「アカギ……」
 自然と口から零れ出た己の声が、自分のものとは思えないくらい掠れ、情愛に潤んでいたので、カイジは驚く。
 からかわれるかとカイジは慌てたが、アカギは
「うん。久しぶり」
 とだけ言って、薄い唇を吊り上げた。

 ああ、本当に久しぶりだと思いながら、カイジはわずかに目を細めて恋人の姿を眺める。
 見た感じ、どこも欠損していないし、怪我もしていなさそうだ。
 ホッと胸を撫で下ろして、入り込んでくる外の空気の冷たさに初めて気づき、
「とりあえず……入れよ」
 と促した。



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