1mg 過去拍手お礼 しげる視点



 1mgなんだ。
 たったの1mg。

「それって、どんな味がするの」
 白と赤のパッケージを手の中で弄びながら、オレはカイジさんに訊いてみる。
 カイジさんはちょっとだけ首を傾げ、
「苦い。辛い。……ちょっとだけ、甘い」
 生真面目にそう答えてくれた。

「ふーん……なんだか、はっきりしないね」
「その日の体調によって違うんだよ……あと、ずっと吸ってるから、今さら味なんか聞かれても答えづらい」
 眉を寄せてそう言うと、カイジさんは灰皿に灰を落とす。
 そういうものなのだろうか。

「ずっとって、いつから吸ってるの?」
「え……」
 カイジさんは途端にギクリとした顔になり、オレの顔から目を逸らす。
「さぁな……覚えてねぇよ」
 ぼそぼそと答えるカイジさん。きっと、吸っちゃいけない歳の頃から吸ってるんだろう。
 まあ、予想はついてたけど。まだガキなんだから吸うなって、オレには口うるさく言うクセに。
「味を聞かれても答えられないくらい、長いこと愛飲してるんだ?」
「……」
 うかうかと墓穴を掘っておいて押し黙るカイジさんは、間抜けでかわいくて、オレを饒舌にさせる。
「そんなに若い頃から吸ってるんなら、きっともう、立派な中毒者だね。今さら、コレなしじゃ生きてけないでしょ?」
 手の中のパッケージをちらつかせて言うと、「知らねぇよ、」とカイジさんはウンザリした顔で言う。
「それより、お前早く返せよ、それ。オモチャじゃねえんだぞ」
『それ』と言いながら、カイジさんはオレの掌中を顎で示す。
 話を逸らそうとする気配を感じ取ったから無視してやると、カイジさんは舌打ちし、まだ長いタバコを唇に挟み直した。

 ランプが灯るようにタバコの先端が赤く燃え、オレの視線はカイジさんの唇に吸い寄せられる。
 乾いていて硬そうな、あの唇に触れたら、オレの心にもあんな風に火が点くのだろうか。
 ぼんやりとそんなことを考える。

 苦い顔ですこしだけ唇を尖らせ、煙を吐き出すカイジさんは、不機嫌そうな表情と相俟ってどことなく拗ねているように見えた。
 渋いようなにおいの煙に巻かれながら、オレは再度、赤と白のパッケージを眺める。

 苦くて辛くて、ちょっとだけ甘い、たった1mgの毒。

「ねぇ、カイジさん」

 返事をしようと開かれた唇を押さえるようにしてタバコを抜き取り、そこに自分のそれをそっと押しつける。
 触れた瞬間、体の芯が赤く燃えるような感覚があって、ああ、やっぱり火が点いたとひっそり笑いながら、オレはカイジさんの唇から奪い取った細いタバコを指で折る。


 こんなものより、オレの方がよっぽど、あんたをうまく依存させてあげられるよ。
 たったの1mgに依存しちまってるあんたには、ちょっと毒が強すぎるかもしれないけど。






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