焦らす(※18禁) エロシーンのみ ぬるい


 傷も黒子もない白磁の頬に、そっと手を伸ばして触れる。躊躇いがちに幾度か輪郭を撫でてから、顔を傾けて近づける。
 カイジにしては大胆なその行動を、アカギはしかし、柔らかく手を押さえることで制止した。
 重なりかけた唇を寸前のところで避けられて、カイジは「なぁ、」とアカギに呼び掛ける。
 その声が微かに震えていて、カイジは言葉を切る。繋がった腰を動かすのをやめて、アカギはカイジを覗き込んだ。
「……なに?」
 いつもと変わらない静かな声のトーンで問いかけられ、カイジは戸惑うように視線をうろうろさせたあと、口を開く。
「……してくれ」
 ぽつりと呟かれた言葉はいまにも消え入りそうだった。
「あぁ……ごめん」
 アカギはクスリと笑い、ゆっくりと律動を再開する。
 油断しきっていたカイジは、驚き混じりの艶声を高く上げてしまう。
「馬鹿、それ……じゃ、ない、っ……!」
 そうやって罵る声さえ甘く跳ね、堪えるように眉を寄せて唇を噛むカイジの顔を、アカギは悠々と眺める。
「……コレじゃない? じゃあ……いったい、あんた、なにしてほしいんだ?」
 深く浅く突き入れながら、意地悪く問いかけられてカイジはアカギを睨みつける。
 わかってるくせに。悪趣味な野郎だ。
 心中でそう毒づくが、さりとて正直に答えなければ望むものは永久に得られそうにない。嗜虐的な色を帯びたアカギの瞳が、なによりも雄弁にそれを物語っていた。
 喉を上下させて嬌声と唾を飲み込むと、カイジはアカギから目を逸らしながら口を開く。
「……キス、……してくれ」
 たったそれだけの言葉を紡ぐのに、カイジは喉が乾上がるほど全身が熱くなるのを感じて、ひどく苦心する。
 それでもなんとか絞り出された蚊の鳴くような呟きを聞いて、アカギは緩く口角を持ち上げた。
 それから、さんざカイジの体を弄んだ指先で、かさついたカイジの唇をなぞる。潤んだ目が瞬かれ、日に灼けた頬が期待に上気するのを見下ろしてから、アカギはゆっくりと首を横に振った。
「……駄目だよ」
「なん、っ……! あっ、あっ」
 てっきり与えられるものだとばかり思っていたところを裏切られ、さらに中を深く穿たれてカイジは目を見開き、仰け反る。
「だってあんた、キスするとすぐイっちゃうじゃない」
 嘲うようなアカギの物言いに、カイジは自身の頬がカッと熱くなるのを感じた。
 アカギはカイジの唇に触れさせていた指を、微かに開いたカイジの口の中に潜り込ませる。
「あんたひとりだけきもちよくなってさ……毎度毎度、置いてかれる方は堪ったもんじゃないんだぜ」
 そのまま、長い指で舌を弄ばれ、苦しいはずなのにそれにすらカイジは感じてしまう。卑猥な水音が鼓膜を揺さぶり、脳まで犯されている心地がする。
『堪ったもんじゃない』という言葉とは裏腹に、アカギはやたら愉しそうだった。今にも溶け落ちそうにとろんとしたカイジの表情を眺め、
「だから、おあずけ」
 無慈悲にそう告げて、舌を嬲った指をずるりと引き抜く。たっぷりと蜜を纏ったように濡れた指に、自らの舌を這わせてカイジの唾液を舐め取っていく。
 その仕草に、カイジはどうしようもなく煽られる。キスがしたい、自分はこんなにもアカギとのキスが好きだったのだと、焦らされて初めてカイジは強制的に気付かされた。
 おそらく、アカギだってわかってやっている。自分のしていることが、カイジを確実に追い詰めているということ。追い詰めて追い詰めて、逃げられなくなったところをさらにいたぶる。
 本当に、悪趣味。それがアカギのやり方だということをわかっていながら、カイジは欲求に抗うことができない。
「我慢、できるよね?」
 そう言われて、カイジは強く首を横に振った。
「あらら」と言って笑うアカギの首裏に腕を回し、強引に引き寄せる。
「堪え性がねえな……犬だって『おあずけ』ぐらいできるってのに」
 間近な距離で囁く声が、微かな振動として唇に伝わる。言葉の内容なんて、ぜんぜん頭に入ってこない。
 焦らされて、却って欲望に火が点いてしまったカイジの両の目は、アカギの唇だけを物欲しそうに見つめている。
 呆れたように肩を竦めてから、アカギは乾いた自身の唇を舌で湿す。
「勝手にイったら、あとが酷いぜ……わかってる?」
 今にも暴発しそうな性器に触れられ、脅すように言われても、その瞳が嗜虐めいた色を帯びているのをわかっていても、カイジにはもう、ひとつのことしか見えていない。
(あとのことなんて、知るかよ)
 本気でそう思っていて、でもそれを口には出さず、代わりに、薄く開いた唇を、カイジはアカギのそれに重ね合わせた。
 震えるくらいの興奮と、快楽を覚えながら。





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