おやすみなさい・2
思い出した。
初めて会ったときも、こいつは泣いていたな。
ある賭場で、さんざむしられて大の男が号泣していた。博奕の打ち筋は凡庸だったが、頬と指の傷が語るように、まるっきり素人というわけでもないらしいことはすぐにわかった。
それが証拠に、泣いていたのも、むしられたことに対してでなく、相手の巧妙に仕組んだイカサマを見抜いたからだった。
今と同じ、焼けるような怒りと悔しさを滲ませる泣き顔がなぜか心にひっかかった。その怒りや悔しさは、サマをやった相手よりも、むしろ見抜けなかった自分自身に向けられているようだった。
そして号泣しながら、自らもう一勝負仕掛けていくのを見て、その肩を叩いていた。
それがすべての始まりだった。そんなことをふと、今思い出した。走馬灯というやつだろうか。
はじめて会ったときから、こいつの泣き顔が、ずいぶん好きだった。
初めは警戒心で固く結われた結び目のようだった心が、二度三度と会うたびに少しずつ緩んでいった。あんなに警戒していた癖に、少し助けてやっただけでいとも容易くすとんと落ちる。
とんでもなく甘いやつだと思った。痛い目にたくさん逢ってきたようだが、ひとえにこの性質ゆえだろう。
だが自分にはないそれが、すこし眩しく見えることもあった。
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