ふたたび、ホテルで(※18禁)・1 女装プレイ 変態注意



 今、どのくらい返済できてるんだろう。

 汗みどろになった体をぐったりとシーツに沈めながら、カイジは呆然とそんなことを思う。
 横目で隣を見遣ると、アカギは今さっきまで激しく動いていたはずなのに、ただひたすら横になって恥辱に耐えていただけの自分よりもよっぽど落ち着いていて、そのすました面をカイジは憎たらしくさえ思った。


 ひょんなことがきっかけでこの悪漢に出会い、自らけしかけた勝負で多額の負債を負い、担保にされた自らの体でそれを支払うようになってから、もう一年あまり。
 この行為も両手で足りないほどの数を重ねるというのに、カイジのメンタルは一向に慣れることなく、屈辱と羞恥心はむしろ回を追うごとに強くなるばかりだった。
 そこには、こんなことに屈してたまるかというカイジの(無駄な)矜持も多分に作用していて、まるで強風に煽られてしなりはすれどもぜったいに折れはしない若木のように、どんな卑猥な行為を受けても決して従順になりきらないでいた。
 しかし心とは裏腹に、体の方はどんどん慣れ、いまや多少の痛みなどにも悦びを見出してしまうまでに開発されてしまったため、精神と肉体の相克に、カイジはたいそう苦しむ羽目になった。

 そんなカイジの葛藤をアカギは見抜いた上で、それを面白がっているようだった。
 カイジが反抗すればするほど、行為は激しさを増した。頑なに閉じた心を強引にこじ開けようとするような、非情な責め方にカイジは辟易していた。
 このところ頻繁になったアカギの訪れが、カイジの精神の磨耗に拍車をかけていた。たった数ヶ月前までは月に一、二度だった訪問が、いつの間にか半月に一度になり、そしてひと月前ほどから週一度はこの部屋に来るようになっていた。
 一刻も早く飽きてくれとカイジは願っていたが、いったいなにが愉しいのか、アカギはひとり暮らしのむさくるしい男の部屋に、まるで恋人のように足繁く通い詰めているのだった。

 精神と肉体の疲弊が蓄積するなか、これだけ体を重ねているのだから返済はかなりいいところまで進んでいるだろうという希望だけが、カイジの拠りどころになっていた。
 といっても、一回いくらという取り決めがあるわけではないので、その進み具合はアカギの一存に依るところであるわけだが。
「なぁ」
 アカギに呼びかけ、カイジは自分の声が枯れていることに気づく。
 ひとつ咳払いしてから、ハイライトを咥えながら自分を見るアカギに向かって言った。
「今、進捗はどのくらいだよ」
「……なんの話?」
「返済」
 ああ、と合点がいったように呟いて、アカギはタバコに火を点ける。
 そして、ソワソワと返事を待つカイジを横目に深々と一服すると、煙を吐き出すついでみたいに言った。
「……さてね。まだまだオレが満足するまで、つきあってもらうつもりだけど」
「はぁっ!?」
 さも当たり前のような口振りに、カイジは眉を跳ね上げたが、
「なにか言いたげだけど。あんたの負債を考えれば、これくらい当然でしょ。それとも、手早く腕や足で済ませる方がマシだった? あんたが望むなら、返済方法を変更してやっても構わないけど?」
 取り付く島もなくそう言われ、うぐぐと唸りながらも言葉を飲み込む他なかった。

 腹いせのように乱暴な動作で、枕元にあるマルボロのパッケージを引き寄せたが、間の悪いことに中身は空だった。
 苦虫を噛み潰したような顔で舌打ちするカイジの目の前に、ハイライトブルーのパッケージがスッと差し出された。
「どうぞ」
「……」
 カイジはふて腐れたような顔のまま、黙って一本抜き出し、咥える。
 するとライターを目の前に翳されたので、顔を寄せてタバコの先を近づけた。
 
 火がついたとたんに、いつもより濃い香りが広がる。
 思いきり煙を吸い込むと、常喫している赤マルより重いせいか、ちょっとだけ頭がクラクラした。
(礼なんてぜってぇ、言わねぇ……)
 心の中でそう呟くと、カイジは勢いよく煙を吐き出す。
 それから、皮肉げに口端を吊り上げると、タバコの先でアカギを指しながら言った。

「お前さぁ。オレばっか構ってねぇで、女でも作れよな。寂しいヤツめ」
「あんたもね」
「う、うるせー! 余計なお世話なんだよっ……!」
「あんたがね」
 さっきの意趣返しをするつもりが、たったの二言で見事なまでにバッサリと切り捨てられ、カイジはまたしても犬のように唸る。
 それでも反抗的に睨みつけてくる黒い目を見て、アカギはうすく笑った。
「でもまぁ……せっかくのあんたからの忠告だし、作ってみようか」
「は? なにを?」
「女だよ」
 カイジは目を丸くする。

 こいつ、なに言ってんだ?

 あるいは己の聞き間違いかとも思ったが、どうやらそうではないらしいということは、アカギの表情を見れば一目瞭然だった。
「……って、お前、そんな軽々しく……」
 言いかけて、カイジは口を噤む。

 そういえば、アカギは存外モテるのだ。
 夜の街で何度か行動をともにして、水商売の女にちやほやされる様子をたびたび目撃してきた。
 金持ってるしルックスもそこそこだし、きっとその気になれば、女のひとりやふたり、すぐにできることだろう。
 それに元はと言えば、女でも作れなどと煽ったのは自分だし。

 しかし。
 カイジはしんと黙り込む。
 アカギに、女。
 自分で言っておきながら、まさかアカギが乗り気になるとは微塵も思っていなかったカイジは、いささか面喰らった。
 なんだろう、この、頭をガツンと殴られたような衝撃は。
 アカギの反応があまりにも予想外だったから、驚きを通り越してショックを感じているのだろうか?

 タバコを吸うのも忘れ、呆けたようにぼんやりとしてしまったカイジを余所に、アカギはまだ長いタバコを灰皿に押しつけると、シャツを羽織りながら立ち上がる。

「それじゃ……行こうか、カイジさん」
「へ?」
 気がつけばすっかり身支度を整えていたアカギに声をかけられ、我に返ったカイジはキョトンとする。

 行くって……どこへ?

 アカギの顔に浮かんだ笑みに言いようもない不吉さを感じ、カイジは思わず問いかけの言葉を飲み込んだのだった。






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