代償(※18禁)・2
「くっ……!!」
目が痛むほど強くその双眸を睨みつけたあと、カイジは唇を噛んで立ち上がる。
そしてアカギの前に膝立ちになると、恥辱に震えながらアカギのズボンに手を伸ばした。
「へぇ……」
笑いを含んだ声を無視し、雑な動作でズボンと下着を下ろし、萎えているそれを握る。
生ぬるい熱となんとも言えない肉の感触に、おぞましさが募る。
カイジは固く目を瞑り、手を動かし始めた。
アカギが見ているであろう自分の姿を想像すると、あまりの惨めさに鼻の奥がツンと痛くなり、どっと涙が溢れてくる。
やけくそのように手を動かすが、いくら擦っても手の中のそれは兆しを見せない。
「カイジさん、それじゃいつまで経っても無理だよ」
鼻で笑われ、カイジはアカギに食ってかかる。
「じゃあ、どうしろってんだよっ……!!」
少しの沈黙のあと、アカギはまだ長い煙草を揉み消し、ビールの空き缶の中に捨てた。
缶を置き、カイジの頭に手を伸ばして自分のモノに引き寄せる。
口許に迫った凶器に、カイジは大きく目を見開いた。
むわりと迫る独特の臭いに、否応なしに腰が引ける。
「別に、無理ならいいけど」
アカギはしれっと言うと、カイジの頭から手を離す。
カイジが自分からは引き下がれないと、わかっていての言動であることは明らかだった。
恨めしげな顔でアカギを一瞥し、鋭く息を吸い込むと、カイジは口を大きく開いて一気にそれをくわえ込んだ。
「んむ……っ」
口のなかでピクリと動いたそれに、カイジは僅かに気分を良くする。
逃げそうになる体をなんとか踏み止まらせ、口の中のそれをたどたどしく吸い、舐め、しゃぶる。
溢れた唾液を潤滑油の代わりに、頭を上下させてピストンする。
「ふは……っ、ぁ……」
カイジが頭を振るのに合わせて、透明な涙が散った。
萎えていたそれが徐々に硬度を増してきた頃、アカギは手を伸ばしてカイジの髪に触れた。
指を絡ませたり、透くようにして玩ぶ。
カイジはちらりと目で抗議したが、すぐさま行為に戻った。
一刻も早く終わらせたくて、カイジは必死だった。
努力の甲斐あって、口の中のモノは大きく張りつめてきたが、それが間断なく喉の奥を刺激し続けて、カイジは何度も吐きそうになる。
涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃに汚しながら、カイジは意地になってそれに吸いつく。
アカギのそれが、ビクン、と一際大きく脈打った。
同時に、アカギが指に絡まったカイジの髪を強く引く。
「っぷは……っ!! ってぇな!! 何すん……」
顔を上げて文句を言おうとした瞬間、アカギが強く握りしめた砲身から、カイジの顔に生温かいものが容赦なくかけられた。
「ぁ……」
カイジは、口を開いたまま固まってしまった。
どろり、と生臭い粘液が頬を伝う。
アカギはその様子を、無表情に眺めていた。
暫しの沈黙。
やがて、カイジの瞳に新たな涙が膨らんで、堤防が決壊したように次々と溢れだした。
アカギの眉が、ほんのわずかだけ動く。
泣くつもりなどなかったカイジは、自分でも驚き慌てて涙を拭った。
(畜生ッ!! 情けねぇ……!! 勝負に負けて野郎に顔射されて、おまけにめそめそ泣いてんじゃねぇよ、アホっ……!!)
手の甲で、でたらめに涙を拭う。だが、その動作が精液を顔中に伸ばしてしまい、もともと汚れていた顔がどんどん惨めになってゆく。おまけに涙は止まるどころか、滝のように溢れてカイジの手を濡らしていた。
アカギは唐突にしゃがみこみ、カイジの手首を掴んだ。
「何だよっ……!!」
カイジはほとんど八つ当たりのように叫ぶ。
その顔は、あちこち擦ったせいで真っ赤で、同じように赤い目は潤み、据わっていた。
アカギは無言のまま、カイジに体重をかけてのしかかった。
「うぉっ……!!」
バランスを崩し、カイジは床の上に強かに頭をぶつける。
「ぃっ……!!」
声にならない声を上げるカイジに構うことなく、アカギはカイジの上に馬乗りになった。
「何してんだよっ……!! もう終わっただろっ……!! さっさとどけよっ」
「何言ってるの」
アカギはククッと笑い、カイジに覆い被さった。
「まだ頂いてないよ。カイジさんの体」
カイジの涙が、一瞬ぴたりと止まる。
「せっかくその気にさせてくれたんだから、しないとね。最後まで」
鼻先が触れるほど間近で見る悪魔じみた笑みに、カイジは総毛立った。
暗闇に、小さな赤い光が灯る。
タバコの煙を深々と吸いながら、アカギはカイジの背中を見た。
事が終わると早々に服を着込み、アカギに背を向けて床に横たわったきり、カイジは動かなくなった。
「カイジさん」
呼びかけても返事はない。しかし、眠っているわけではないことが、アカギにはわかっていた。
カイジは行為の衝撃にみっともなく震える体と、相変わらず乾くことのない涙を止めるのに必死だった。
自分の体を抱くようにして腕をぎゅっと掴み、無理矢理に心を落ち着かせようとする。
行為中、カイジは激痛と汚辱に耐え抜き、最後まで音を上げなかった。
が、今になってその無理が響いてきたらしい。
終わってから時間が経つのに、まだこんなにも動揺しているのを、どうしてもアカギに知られたくなかった。
返事をしないのも、狸寝入りをしているからではなく、今返事をしたら確実に声が震えてしまうと思ったからだ。
アカギは石のようにだんまりを決め込む背中を見ながら、紫煙を燻らせた。
どのくらいの時間が経っただろうか。
沈黙を破り、アカギが再びカイジに話しかけた。
「そんな風に泣かれると、女に乱暴したみたいで嫌なんだけど」
「……ッ!! てめぇ、ぶっ殺す……!!」
頭にカッと血が上り、素早く体を反転させる。
が、すぐ目の前にアカギの顔があり、カイジは一瞬怯んだ。
その隙をついて、アカギはカイジの頬に手を伸ばす。
反射的にすくめられた肩に少しだけ目を細め、アカギは溢れる涙を親指で拭った。
「カイジさん。これで終わりだと思わないでね」
「え?」
柔らかい動作と真逆の不穏な言葉に、カイジは瞬く。
「当然だろ? あれだけ負けておいて、これ一回だけなんて、そんな甘い話あるわけないでしょ」
覚悟しておいてね。
囁かれた言葉にカイジの顔が青ざめる。
カーテン越しに漏れる月明かりを浴びながら、アカギはするりと立ち上がる。
「あ、ま、待てっ」
アパートから出ていこうとするアカギを見据え、カイジは言い放った。
「今度は絶対、お前に勝つからなっ……!! そっちこそ、覚悟しとけっ……!!」
アカギは悠々と微笑み、
「おやすみ、カイジさん」
そう言って、アパートから出ていった。
それを見送り、カイジは風船から空気が抜けるように脱力する。
「なんだ、帰るの、かよ……」
しかし、安堵の溜め息とともに吐かれたはずの言葉には、なぜか落胆の響きが混ざっていて、カイジは独りまた動揺した。
終
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