Too stubborn Two



 少し前を歩く白い後頭部が、陽の光にきらきらしている。
 それをぼんやり眺めながら、カイジはくわえたタバコに火を点けようとした。

 ライターを何度かカチカチやって、ガス切れに気づく。
 役立たずのそれをポケットにしまおうとしたカイジの目の前に、別のライターが差し出された。

「どうぞ」
 いつの間にふり返ったのか、ライターを差し出したのはアカギだった。
「おう。サンキュ」
 短く礼を言って、カイジはライターに手を伸ばす。
 受け取るとき、互いの指がかるく触れた。

 伝わる体温に、カイジはどきりとする。
 ……なんてことはなく、カイジはごく普通にライターを受け取り、タバコに火を点けた。

 肺に煙を送り込みながら、さっきアカギの指に触れた箇所をまじまじと眺めてみる。
 指を何度か曲げ伸ばししてから、アカギの顔を見た。目が合う。
 アカギはカイジの一連の動作を、ずっと見ていたらしい。
「どうしたの」
 投げかけられた質問には答えず、カイジはアカギの目をじっと見る。
 アカギがその瞳を見返す。
 はたから見たら不自然なほど長い時間、ふたりはそうやってただ見つめあっている。
 なにかを言いあぐねて黙っているような、相手がなにか言うのを待っているような、空回りする空気。

 やがて、カイジのほうが視線をそらした。
「……いや、なんでもねえ。ありがとな」
 ライターをアカギに返す。
 アカギの視線がまだ自分に注がれているのを感じながら、カイジは大きなあくびをした。

 手が触れても、視線を絡めても、どきりともしなくなったのはいつからだろう。

 カイジはつらつらと考えてみる。
 出会って、お互いに惹かれあった。
 互いの想いに気づいた時から、無言の駆け引きが始まった。

 カイジに言わせたいアカギと、アカギに言わせたいカイジ。
 もともと、難しい勝負にこそ燃え上がるタイプのふたりである。
 相手の出方を待ち、時には自分から仕掛け、そんなことをもうずっと続けながら、気がつけばかなり長い時間を過ごしてしまった。
 出会ったころの駆け引きの熱は、もう粗方ひいている。
 あらゆる策をろうじつくして、それでもなかば意地になって沈黙を続けるふたり。
 どこかひねくれて、ねじ曲がった恋。
 けれど自分たちの、世間のそれからは大きく外れているであろう恋のし方が、カイジは嫌いではなかった。
 それは、相手も同じだろう。

 ふたたびカイジに背を向けたアカギの後頭部を見ながら、カイジはあくびに紛れてふわりとつぶやいた。
「いいかげん降参しろ、この意地っ張り」
 聞こえているのかいないのか、アカギの返事はない。
 だが多分、その顔は笑っているだろう。それはこっちの台詞、とでも言いたげに。
 そんなことを思いながら、カイジは吸い込まれそうな空に向かって大きく伸びをした。



2013年いい夫婦の日



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