隣はなにをする人ぞ バカップル話


「っあー……」
「どうしたの」
「アカギ、わりぃんだけど鍵出して」
「鍵? どこ?」
「尻ポケット」

……

「ぅひゃっ!?」
「なに、その色気のない声」
「て、てめぇ、変な触りかたすんなよっ……!」
「オレは鍵探してるだけだけど」
「あっ! も、揉むなバカっ! っひ……」
「ていうか、鍵、見つかんねぇ」
「う、うそつけっ! ひっ、ぅあ!」
「ここにはないみたいだけど……こっち?」
「あっ、アホ! そんなとこにあるわけねぇだろっ! っあっ、そこ、触る、な、って……」

 ーーガチャリ。

「あ……」
 隣の部屋のドアが開き、アカギとカイジは固まった。
 寝癖だらけの頭をした、不機嫌そうな中年男がぬっと顔を出す。

 流れる気まずい空気。

「ど、ども……」
 挨拶になっているようでなっていない挨拶をして、カイジは軽く頭を下げる。

 男は、怪しい隣人たちーー自室の前でスーパーの袋を両手に提げたカイジと、その背後にくっついてジーンズの尻ポケットに手を突っ込んでいるアカギーーを見て顔をひきつらせ、速攻で部屋に引っ込んだ。

 バタン、と無機質な音をたてて扉が閉まる。


「うぁぁぁ……ひ……引かれたっ……!」
 カイジは青ざめ、涙の溜まった目でアカギを睨み付けた。
「お前のせいだぞっ! 絶対オレら、変態だと思われたじゃねぇか!」
「べつに……構わないでしょ。カイジさんは実際、変態なんだし」
「死ねっ……!」
 ブンと振り回された買い物袋をひょいと避け、アカギはなんでもないことのように言う。

「大体、今さら遅いって。あんた喘ぎ声でかいんだから、お隣はとっくの昔にドン引きしてると思うけど」

 アカギはしれっとした顔で、先程までまさぐっていたカイジの尻ポケットから鍵を取り出した。
「あ……あった」
 白々しく言って、アパートのドアを開錠する。
 さっさとドアを開けると、アカギの発言に衝撃を受け固まっているカイジに声をかける。
「入らないの?」

 ああ、そうだ。
 近々、ここを越そうーー

 数々のショックで立ち直れなくなった心の隅で、カイジはそう誓ったのだった。






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