ひと夏のおもいで・4(※18禁)



 蛇口を捻り、流れる水に手を浸すと行為の残滓が排水溝へ流れていく。
 トイレの水道で念入りに手を洗っているカイジに、アカギが言った。
「やっぱり、あんたで遊ぶのが一番面白い」
 カイジは眉を寄せて顔を上げる。隣で同じように手を洗うアカギは、既に酔いも醒めたようで、やけにスッキリした顔をしている。
 それとは対照的に、鏡に映るのはげっそりした自分。理由は……思い出したくもない。
「てゆーか、オレ『で』遊ぶって言うな! オレはお前のオモチャじゃねぇんだぞ!」
 アカギは軽く目を見開き、わざとらしく首を傾げる。
「そうなの?」
「そうだよッ!」
 憤怒の表情で怒鳴るカイジに、ふっ、とアカギは笑う。
「でも……関係ねぇな、そんなことは。オレはしたいようにするだけさ」
 あんたも気持ちよかったでしょ?
 含み笑いとともにそう言われ、カイジの顔が赤くなる。
「うるせぇっ……! この、キチガイっ……! 色情狂っ……!」
 罵詈雑言をぶつけられ、アカギは愉快そうに目を細める。
「元気になったじゃない」
 更なる文句を言い募ろうとしていたカイジの舌が固まった。

 元気? オレが? そういえば、ついさっきまで、仕事に就けなくて落ち込んでたんだっけ。
 アカギの気まぐれに引っ掻き回されてわぁわぁ言っている間に、そんなことすっかり忘れちまってた。

 カイジは横目でアカギをちらりと見る。

 手を洗い終えたアカギは、涼しい顔でポケットから煙草を取り出している。


 まさか、それが狙いだったとか? 結果的に自分は、不覚にもアカギの言葉通り、慰められてしまったということなのだろうか?

 ……いやいや。仮にそうだとしても、あんな変態じみた慰められ方は二度と御免だ。

 先ほどの記憶が蘇りそうになるのを、頭をぶんぶん振って阻止しようとするカイジに、アカギはカラカラと笑う。

「しおらしいあんたなんて、つまらないよ」

 無職のプレッシャーとはまた別の疲労感がどっと押し寄せてきて、カイジは鏡に額を押し付け深いため息をついた。








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