ごめんね 甘々


「お前なぁ……っ! 遅れるなら電話の一本くらい寄越せって、いつも言ってるだろっ……!」
 アパートにやってきたアカギの顔を見るなり、大声で捲し立てるカイジの剣幕に、アカギは思い切り面倒臭そうな顔をしたあと、「ごめん」と謝った。
 心の欠片もこもっていないようなその謝罪を聞いたカイジの額に青筋が走る。

 そんなカイジの怒りを知ってか知らずか、アカギは淡々と言い訳を並べ始める。

「携帯、持ってねえし」
「誰かに借りるとか、公衆電話とか、いくらでも方法はあるだろうがっ」
「カイジさんの番号、覚えてない」
「はぁぁ? お前またなくしたのかよっ! こないだ書いて渡したばっかだろっ……!」

 すると、アカギはまた、しれっとした顔で「ごめん」と謝る。血管がブチ切れそうになるのを、カイジは理性を総動員してなんとか抑え込んだ。

 たとえ連絡なしで遅刻しても、天下の赤木しげるを咎められる人間が周りにほとんどいないためか、アカギは基本的に時間にルーズだった。変なところで几帳面なところがあるカイジには、それが許せない。
 今日だって、アカギが来るからって、作った夕飯も食べずに待っていたのだ。それなのに、来ると約束した時間から連絡もなしに四時間も遅れて来やがって。

 しかしカイジが怒っている理由はそれだけではなく、その怒りの大部分はこの、心が伴わない謝りかたにあるのだった。

 最初こそ、この悪漢が意外に素直に謝ることに感動していたのだ。
 そのせいで、謝られるとどんなことでもわりとすぐに許してしまっていた。
 それが悪影響を与えてしまったらしく、最近のアカギはとりあえず形だけでも謝っとけばなんでも許されると思っているのが透けて見えるのである。

 現に今も、ごめんと謝っておきながら、その手はさっさとカイジの腰に廻されてあらぬところを触ろうとしている。こんな謝罪ならされない方がマシで、カイジの怒りに油を注ぐだけなのである。


 煮えくり返る腸を落ち着かせるため、カイジは深呼吸する。

 落ち着け、オレ……!
 アカギがこうなってしまった原因の一端は、オレにあるのだから。
 こいつもちゃんと謝るんだってことに感動して、なんでもかんでもホイホイ許しすぎた。
 だから、こいつはオレが責任をもって、しつけなおさなければならない。

 多少、冷静さを取り戻したカイジは、気を引きしめてアカギと向かい合おうとする。だがカイジが妙な使命感に燃えている間に、アカギの手の動きはどんどん不穏さを増していて。

「あ、てめ、ドコ触って……、ッ!」

 気付けばカイジは完全にアカギの手中、慌てて体勢を立て直そうとするも、クスクス笑いながら首筋を吸われたりするともう、膝から崩れ落ちそうになるのを堪えるので精一杯になってしまうのだった。

 くそっ、このまま流されてたまるかよっ……!

 半ば、アカギの体にしがみつくようにしながらも、カイジは必死で抵抗を試みようとする。
 そんなカイジに焦れて、アカギはカイジの体をまさぐるのをやめ、カイジの頭を引き寄せて口付けようとした。

「……っ!!」

 カイジはとっさに、間近に迫ったアカギと自分の顔の間に右掌を割り込ませる。そのまま、アカギの唇を隠すように押さえつけた。

 そして、すっかり熱に潤んだ瞳で、火照った頬で、アカギを睨み付けて、言った。

「ほ……本気で反省するまで、おあずけっ……!」

 沈黙。

 アカギは何度か瞬きをしてから固まっていたが、やがて、急にカイジの首筋に額を押しつけるようにしてうつむいた。
 こ、効果ありか? カイジは期待をこめてアカギの反応を伺う。だがアカギがなにもいわないため、少し不安になった。

「アカギ……?」
 返事はない。しかしカイジは気が付いた。
 アカギの肩が小刻みに震えていることに。

 アカギはーー声を殺して笑っているのだ。

「な、何がおかしいっ……!?」
 カッとなってカイジが吠えると、アカギは笑いながら顔をあげる。
 そして、幾分笑みに細められた目で、カイジの目をじっと見て言った。

「なんか、すげぇ乱暴しそう 」
「……!?」

 ……はぁ? 今の流れで一体、なにがどうしてそうなるんだよ!? 脈絡がぜんっぜん、掴めねえんだけど!?

 あまりに予想の斜め上を行きすぎているアカギの反応にパニック状態のカイジは、もはや完璧にスイッチが入ってしまったアカギのされるがまま。
 なすすべもなく、あれよあれよという間に快楽に流されていくのだった。

「ちょ、バカ、……っん、あっ、おあずけ、だって、離せよッ、こ、の……っあぁ!」

 体はどっぷり溺れかけ、それでも途切れ途切れに抗議してくるカイジの顔に、アカギは再度、顔を近づける。
 そして不敵に口角のつり上がった、少しも悪びれていないような顔で

「ごめんね」

 と謝るのだった。

 




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