のぞみ 暗め

「アカギ」

 長い髪の青年が目元を和らげて笑う。
 すこし照れ臭そうな、それでいて嬉しそうな笑顔で。
 隠しきれない慕わしさが空気を通して伝わってくるようで、ふと胸に迫る感情があった。
 同時に、これは夢だな、と思う。
 現実の彼は、こんな風に自分に笑いかけたりしない。

 違和感を振り払うように、アカギは目覚めた。
 隣で眠る男の、見慣れた横顔を見る。
 疲れの色が濃い。若干、やつれているようにさえ見える。昨夜は多少の無体を強いたから、そのせいなのかもしれない。
 夢の中にいた彼とはまったくの別人のようで、あれが自分の無意識が作り出した虚像なのだと思い知る。

 タバコをくわえ、火を点ける。
 深く息を吸い、肺を煙で満たしていく。

 このままでいいはずだ。
 望まれるまま与え、望むまま与えられる、体だけの関係。
 互いに合意の上だったし、後腐れなくていいと、言ったのは相手の方だった。

 ――だが、鳩尾の辺りにちりちりと、焦げ付くような感覚がある。
 夢の延長のようなそれに、アカギは強く、フィルターを噛み潰す。

 それとも、心のどこかで望んでいるというのか?
 さっき見た夢のような。
 あんな、生温い関係、この人の笑顔を。

「くだらない」
 低く吐き捨て、アカギは笑った。
 だがその笑顔がひどく歪であることに、本人すら気づいていない。






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