蛇足 「シエスタ」おまけ ひきつづきゲロ甘注意



「シャンプー?」

 カイジの手首をベッドに縫いとめながら、アカギが僅かに首を傾げた。
 カイジはギクリとし、しまった、と思った。

 いろいろ思うところがあり、シャンプーを買った。
 できるならアカギにばれたくないと思って、わざわざ洗面台に隠してこっそり使ったのに、まぬけなことに香りのことを完全に忘れていた。
 メントールの、鼻に抜ける冷たい香り。アカギが気づかないわけがない。
 無香料のものにするべきだったと、自分の詰めの甘さを悔やんでも、もう遅い。

「ふーん……」

 シーツの上に散らばったカイジの髪を弄び、アカギはクスリと笑う。
 ああ、とカイジは諦めにも近い感情で嘆いた。
 たったこれだけのことで、この悪魔じみて敏い男には、すべてわかってしまったのだ。
 知られたくない心の中のことまで、ぜんぶ。

「あんたってさ」

 アカギはカイジの頬に手をあてる。

「たまに、かわいいことするよね」 

 親指の腹で、そこにある傷をわざとらしいほどゆっくりなぞられ、カイジは口をへの字に曲げた。そんな顔をしてみても、頬がみるみる熱くなっていくのが自分でもわかる。

 カイジはアカギの手から逃れるように横を向き、ぼそぼそ言った。
「……くたばれ、外道」
 そんな負け惜しみじみた言葉しかでてこない自分もイヤになって、カイジは目をつむった。ああもう、どうにでもなれ、という気分だった。

 アカギは喉を擽るような声で笑う。そして、カイジの首筋に顔を埋め、湯上がりの湿った香を嗅ぐように息をして、やはり笑った。

 長い長い春の夜は、まだ始まったばかり。





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