ホテル・5(※18禁)


 くたくたになったカイジの体は、時々思い出したようにひくりと痙攣していた。
 鼻先で髪を掻き分けて項に歯を立てると、カイジはもぞもぞと顔を体を動かしてぼそりと言った。
「こんな、ことして、楽しい……っ、のかよっ」
 言葉を絞り出している途中でアカギがモノを引き抜いたせいで、語尾が上擦った。
「つまらなかったらしねぇよ、こんなこと」
「あっそ……」
 さらりと即答するアカギにカイジは緩く息を吐いて、鈍く痛む体を起こした。
「オレ、そんなにお前に嫌われてたんだな……」
(まぁ……無理もねぇか。こんな落ちこぼれ、ムカついてひでぇこともしたくなるよな……)
 カイジは自分の思考に若干へこみながら、下着に足を通す。
 ズボンを拾おうとしたその腕を、アカギが強く掴んだ。
「……? なん……」
 カイジは言いかけて、口をつぐんだ。
「え、何……? なんか、顔、怖ぇんだけど」
「……」
 アカギはカイジをじっと見つめ、ぼそりと呟いた。
「別に」
「あ、ああ」
「嫌ってねえよ。カイジさんのこと」
 それだけ言って、アカギはカイジの腕を解放した。
「そ、そうか。そりゃ良かった」
 アカギの意図がつかめず、カイジはとりあえず笑ってみる。
(なんだ? 相変わらず変なヤツだな……)
 困惑するカイジをよそに、アカギは大欠伸をしながら乱れた衣服を整え、
「……寝る」
 と言って、熊のようにのそのそベッドに上がる。 
 ぽかんとしているカイジをよそにシーツの間にもぐりこんだ。
(なんなんだ、こいつ……)
 自分は帰ってもいいのだろうか。
 カイジが考えていると、その思考を見透かしたかのように声がかけられる。
「勝手に帰ったら、返済はなしだから」
 くぐもった声はひどく眠そうだった。このうえ、まだ何かされるのだろうかとカイジは身構えたが、アカギはそれっきり黙りこくっていた。
 不審に思ったカイジが近づくと、アカギはすでに寝息をたてていた。
「ってお前、まさか『ご宿泊』する気じゃねえだろうな!? おいっ」
 慌てて肩を揺すってもアカギの瞼はぴったり閉じられたまま、ぴくりとも動かない。
「マジかよ……」
 カイジは深く深くため息をついてうなだれた。
 さっきから、アカギの行動はカイジの理解の範疇を超えていた。
 カイジの心中などどこ吹く風の、安らかすぎる寝顔を見ながら、この先まだまだ続くであろう返済のことを考えてカイジは暗澹たる気分になった。





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