ホテル・2(※18禁)


 助けてもらった礼におごるというので、アカギはカイジとともに小さな居酒屋に入った。
 お世辞にもきれいとはいえない店内に、さまざまな料理のにおいと陽気な話し声が息苦しいほど充満している。
 金のないカイジでもおごれるような店だからなのか、ボロい見かけの割に繁盛しているようだった。

「あんなとこで何してたの、カイジさん」
「は、はは……、色々あったんだよ……」

 カイジは適当に言葉を濁して、ビールをあおる。
 パチンコで負けた腹いせにゴミ箱を蹴っ飛ばしたら、たまたまそこに通りかかったチンピラの靴を汚してしまった。
 なんてこと、言えるわけがない。
 殴られて切れた唇に、ビールが沁みた。
「へぇ。まぁ、大方の予想はつくけど」
 独り言のように呟くアカギを遮るようにして、カイジは明るい声を上げる。
「それにしても、お前ケンカ強いんだなっ……! ぜんぜん、そんな風には見えねえのに」
 運良く助かった感動が尾を引いているのか、カイジは始終上機嫌だった。
 飲むペースもいつもの倍以上で、あっという間に空き瓶が増えていく。
「お前には、感謝してもしきれねぇよ。ほんとにありがとな……」
 いつもの泣き癖に酔っ払い特有の涙もろさが加わり、カイジの目は潤んでいた。
 ぐすぐすと鼻をすするカイジを見て、アカギは人知れず悪い笑みを浮かべた。


 会計を済ませ、店を出る。
 カイジは相変わらず上機嫌で、足元をすこしふらつかせながら歩く。
 そんなカイジのすこし後ろを、アカギは無言でついてきていたが、しばらく歩いたところで唐突に口を開いた。
「カイジさん。まさか、助けてやった礼を、こんなしょぼい酒だけで済まそうってわけじゃねぇよな?」
「は? ……」
 思いもよらなかった台詞に、カイジは立ち止まる。
 失礼な言いぐさに腹をたてながらアカギをふりかえるが、アカギの服の裾に付いた血の跡が目に入り、とっさに白々しい台詞が口をついて出た。
「あ、ああ!! あたりまえだろっ! ……だけど、俺いま金ねぇから、今度必ず……」
「金じゃなくても、今すぐ差し出せるものがあるだろ?」
 カイジの苦しい言い訳を、アカギがばっさり切り捨てる。
「さ、差し出せるもの、って……」
 アカギはニヤリと笑い、なにかを顎で示す。
 おそるおそるそちらを窺うカイジの目に飛び込んできたのは、まばゆく光る黄色いネオンに囲まれた『ご休憩』『ご宿泊』の文字。
「ははっ……」
 カイジの口から乾いた笑いが漏れる。
「冗談だろ……?」
 しかしアカギの顔に本気の色を見てとるやいなや、カイジは全力で逃げ出そうとした。
 だが、ほとんど素面のアカギから、へべれけのカイジが逃げられるはずがない。
「負債だって大量に残ってるだろ。あんたに拒否権なんてねえんだよ」
 アカギにずるずると腕をひっぱられながら、カイジは半泣きで抵抗する。
「アホかぁっ……! なんで男となんかっ……! 無理っ……!! ぜったい無理っ……!!」





(……って、言ったのに……っ)
 結局カイジの抵抗むなしく、安っぽい内装の小さな部屋にアカギと入ることになってしまった。
 トイレに立ったアカギを待つ間、カイジは落ち着かないようすで部屋をうろつく。女性経験がないわけではないが、こういうホテルに入るのは初めてだった。
 もっといかがわしい配色や内装を想像していたが、全くそんなことはなく、ビジネスホテルを少しだけ豪華にしたような飾り気のない部屋だった。
 大きなテレビがあるが点ける気になんかならない。壁際に並んだスイッチで、部屋のあちこちの照明を点けたり消したりしながら、これから自分がなにをされるのかぐるぐると想像を巡らせる。

「なにやってるの」
 突然、背後からかけられた声に、カイジは悲鳴をあげそうになる。





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