ホテル・1(※18禁) 尿道責めあり

 極彩色のネオンが溢れる、騒々しい夜の繁華街。
 雑踏のなか、少しも歩調をゆるめることなく、人の間を器用に縫ってアカギは歩いていた。

 顔見知りに頼まれた麻雀の代打ち勝負。
 思っていたよりもずっとつまらなくて、終わりはとてもあっけなかった。
 思い出して、アカギは欠伸を噛み殺す。
 あまりの退屈さに、気分がむしゃくしゃしていた。懐に入っている金を使ってなにか鬱憤晴らしでもしようかと考えたが、今日はそれすらも億劫だった。膿んだ気分を持て余しながら、アカギは黙々と歩く。
 
 
 大通りを曲がり、細い路地に入った時だった。
 建物の隙間から、ものすごい勢いでなにかがまろび出てきた。
 とっさに身をひるがえすが、避けきれずに肩がぶつかる。
「あ、悪いっ!!」
 聞き覚えのある声。
 謝罪もそこそこに走り出そうとした人物の腕を、反射的につかむ。
「……カイジさん?」
  果たして、それは伊藤開司その人だった。
 思いがけない場所で知った顔に出くわし、カイジは目を丸くする。
「あ、アカギっ……!!」
 ふたりが最後に会ってから、実に三ヶ月ぶり。
 偶然の再会だった。
「ひさしぶり。こんな街中で鬼ごっこ?」
 アカギはからかうように言ったが、カイジは上の空で、背後をちらちらと気にしている。
「悪いが、おまえに構ってるヒマはねえ。早く逃げねえと……」
 言い終わらないうちに、カイジの出てきたビルの隙間から、三人の男が走り出てきた。
 それぞれ辺りを見渡し、ひとりの男がカイジを指さす。
「おい、居たぞっ!!」
「テメェ、逃げられると思ってんのかっ!!」
 やべっ、と小さく叫んで、カイジは逃げ出そうとする。
 だが、アカギが腕をつかんだまま離さない。
「アカギっ、てめえ、離せよっ……!!」
「クク……、相変わらず冷てぇな。ひさしぶりに会えたってのに」
 そうこうしている内に、男たちが近づいてきた。
「なんだテメェ、このクソガキの知り合いか? あぁ?」
 派手な柄シャツを着た、体格のいい男がアカギに凄む。
「なぁ兄さん。オレさぁ、お前のオトモダチに靴を汚されちゃったんだよね」
 別の男が、わざとらしい笑みを顔にはりつけてアカギに近づいてくる。だが、その目は少しも笑っていなかった。
「金だよ、金。わかるよなぁ? 兄さん」
 アカギは、こそこそと自分の背後に隠れようとしているカイジを見遣る。
 落ち着いて見てみると、カイジの右頬は腫れ、口の端に血が滲んでいた。
 アカギの唇が、きれいな弧を描いた。
「なるほどね」

 数分後。
「ちっくしょ……、お前ら、タダで済むと思うなよっ……!!」
 絵に描いたような捨てぜりふを吐いて逃げ去る男たちの背中を、カイジは呆気にとられて眺めていた。
 血のついた拳を服の裾で拭い、アカギはカイジをふりかえる。
 怯えたように二、三歩あとじさるカイジに微苦笑し、声をかける。 
「大丈夫? 怪我、してるみたいだけど」
「あ、ああ……」
 カイジはそこでようやく、自分がアカギに助けられたのだと認識し、安堵のあまりその場にへたりこんだ。



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