solo・2(※18禁)


 カイジは唇を噛んでうつむき、早くも自分の言ったことを後悔しているようだったが、アカギが体を向けると、緩慢な動作でスウェットの中に手を突っ込んだ。
「駄目。ちゃんと脱いで」
 ぴしゃりと言い放たれ、カイジは仕方なくスウェットに手をかける。
 こういうのは、いさぎよくやる方が恥ずかしくないと思ったので、下着も一緒に一気にずり下ろす。
 五万がチャラ、五万がチャラ……と心で唱えながら、アカギとの間にエロ本を置いて、自身を握る。さっきはあれほど興奮した裸の女に、今はなにも感じられない。
 それでも、ままよ、と上下に強く擦ってみるが、アカギの視線を痛いほど感じるせいで、まったく集中できない。
「な、なぁ、アカギ」
「なに?」
「目、瞑っていいか? 気が散って、ぜんぜん勃たねえ……」
  正直、カイジの目が快楽にとろけていく様子も見たかったが、首筋まで赤く染めてうなだれる様子がなかなか扇情的だったので、アカギは許してやることにした。
「いいよ。好きにすれば」
 カイジはほっとしたように目を閉じて、行為を再開した。

 ここには自分しかいないと言い聞かせ、アカギの存在を意識から追い出す。
 最初はなかなか思うようにいかなかったが、努力の甲斐あって段々と気分が乗ってきた。さっき出せなかったせいか、思ったよりも大きな波がすぐに襲ってきて、ひとりの時には出さないような声が口から零れた。
「ぁ、っん」
 駄目だ、こんな声、出しちゃ。アカギに、聞かれてしまう。そう思った途端、ずくんと腰が大きく疼いた。
「あっ、はぁ、あぁ……っ」
 見られてる。アカギに。あるはずのない、視線の熱を感じる。声はもう止めようがなかった。
 さっきまで思考の外に追いやっていたアカギの存在に、どうしようもなく煽られている自分に、カイジは戸惑う。だがその戸惑いさえも、被虐的な快感に変わった。
(やば……オレ、変態かよ……っ)
 頭の中の冷静な部分が、自分のおかしさにツッコミをいれる。しかし原初的な欲求に体は逆らえず、手の動きは快楽を貪るようにますます大きくなった。
 気持ちよすぎておかしくなりそうだ。硬直しきったものから先走りがだらだら流れ、ぐちぐちと粘着質な音が途切れることなく続いている。
 下腹をゾクゾクと這い上がってくる吐精感に、カイジのわずかに残った理性もとうとう焼き切れた。
(あぁ、もういい、変態でいいっ……!)
「あっ、あぁっ! ダメだっ、イく、アカギっ……!」
 すすり泣くような声でアカギの名を呼び、カイジはビクビク震えながら射精した。
 断続的に吐き出される精が、とっさに先端を覆った左手にビチャビチャあたるのを感じる。溢れかえったそれは竿を伝い、右手も汚した。
 ごしごし擦って最後の一滴まで絞り出すと、カイジは深く息を吐いた。
 あぁ……イってしまった、こんな状況で。急速に冷えていく頭の中で、カイジは途方に暮れた。
 どんな顔をして自分を見ているのかと、そろりと目を開けてアカギを見る。
 アカギは実に熱く、真剣な眼差しで見ていた。

 テレビを。

「なっ……! がっ……!」
 まさかこいつ、
 言い出しっぺのくせに、
 見てなかった……だと!?
 怒濤の怒りと羞恥と屈辱に目の前が白く飛ぶ。体が勝手に動いて、気がつけばカイジは猛然とアカギに殴りかかっていた。
 だが体を引いてあっさりかわされ、勢いを殺し損ねてベッドに倒れこむ。
「どうしたの、カイジさん」
 アカギは首を捻ってカイジを見る。その白々しい問いに、うつ伏せに倒れたままカイジはなんの反応も示さない。
 アカギはテレビを消す。すると、しゃくりあげるような声と鼻をすする音がカイジの方から聞こえてきた。
 少しやりすぎたか。アカギは微苦笑する。
 体に触れようとすると、小さな声で「さわるな」と言われる。
 かまわず脇の下に手を差し込み、猫を持ち上げる要領で体を起こさせると、ぼさぼさに乱れた髪の下、カイジは顔を真っ赤にして唇を噛み、ぼろぼろ涙をこぼしていた。
 がんぜない子どものような泣き顔に、アカギは思わず笑みをこぼす。悪戯したい気持ちがむくむく膨らんでくるのを、理性で押さえつける。
 これ以上いじめたら、部屋をしめ出されかねない。どうしてこの人は、こんなにも加虐心を煽るのがうまいのだろう?

 しゃくりあげるように息を吸い、アカギを見ないままカイジは吐き捨てる。
「お、まえ、なんか、嫌いだ」
「そう? オレはあんたのこと、結構好きだけど」
 軽い調子で言っても、カイジはぴくりとも動かない。アカギは声に出さず笑って、素直に謝った。
「ごめん、カイジさん。ちょっといじめすぎた」
「……」
「見てたよ。ちゃんと見てた。あんたがひとりで気持ちよくなるとこも、女みたいな声上げるとこも、オレの名前呼びながらイくとこ――」
 その先は、カイジの手に口を塞がれて言葉にならなかった。
 今日いちばん赤い顔で、信じられないといった表情でカイジはアカギを見詰めている。
 ようやく視線が合い、アカギの表情が満足そうなものに変わった。その顔を見てアカギの発言の目的に気付いたカイジは、口をへの字に曲げておずおずと視線を外す。

 よくよく冷静になってみたら、このやりとりはまるで『アカギに見ていて欲しかったのに』と怒っているようではないか?
 ぜんぜん、そういうわけじゃないのに。それじゃあなにに怒っていたのか、と自分に問うと、やはりアカギが見ていなかったことに対して、であって、考えれば考えるほど、カイジはもう、なにがなんだかわからなくなってきた。
 怒る気は中途半端に削がれ、恥ずかしさだけが倍に増えた。やり場のない感情を、カイジは礫のような言葉でアカギにぶつける。
「ばっかじゃねえの……変態だな、おまえ」

 まあ、あんたほどじゃないけどね。

 と、応えるかわりに、アカギは口を塞ぐカイジの手を掴み、そこに付着している精液をぺろりと舐めた。
 




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