sapling・1 ほのぼの
あまり感情を表に出すことのないしげるが、その顔を頻繁にしかめるようになったのは、ごく最近のことだった。
原因不明の体の不調のせいである。
夕方から夜にかけて、足の関節――特に膝のそれが、強くひっぱられるようにギシギシと痛むのだ。
痛みには強い方だとはいえ、決まり事のように毎日規則正しく襲来するこれには、いい加減嫌気がさしてきていた。
「どうした? 具合でも悪いのか」
陰鬱な気分で痛みに耐えるしげるを見て、Tシャツに袖を通していたカイジが声をかけてきた。
誤魔化すのも面倒くさかったので、正直に話すことにする。
「……ちょっと。このごろ、膝が痛くて」
具体的な症状を問われたので話すと、カイジはわずかに目を大きくしたあと、なにやら得心顔になった。
「しげる、ちょっと立ってみろ」
「……なんで」
いいから、と急かすカイジに、しげるは仕方なく立ち上がる。
目の前まで移動してきたしげるの、頭のてっぺんあたりをじっと見て、カイジは「やっぱりな」とひとりで頷いた。
しげるが目だけで問うと、カイジは笑って答える。
「気づいてたか? お前、前よりもでかくなってる」
意外な返答に顔を上げ、しげるはそこにあるカイジの顔を見る。
そういえば確かに、前はもっと低い位置からこの顔を見上げていたような気がする。
「成長痛だよ。お前くらいの歳になると、急に体がでかくなるからな。関節がついていけてねえんだろ」
その言葉に切れ長の目を丸くしているしげるを見て、カイジは笑みを深くした。
本性は魔物とはいっても、体はやっぱり年相応、成長期真っ只中、十三歳のそれなのだ。
しかも、自分を苦しめるその痛みの原因に、どうやらしげるは今の今まで思い至らなかったようである。
普段からしげるの生意気な言動に悩まされているカイジの目には、それらはなんとも微笑ましく、そして愉快な光景に映った。
一方しげるは全く別のことを考えていた。
成長痛。
本当にこれがそうなのだとしたら、なんて厄介なのだろう。
たかが体の成長ごときで、なぜこんなわずらわしい思いをしなくてはいけないのか。
胸糞悪い気分を増長させるように、カイジがニタニタ笑いながらしげるを見下ろしてくる。
しげるの嫌いな顔である。こういう顔をするときは大方、なにか失礼なことでも考えているに違いないのだ。
「いいことだ。いっぱい食っていっぱい寝て、すくすく育てよ、しげる」
案の定、そんなことを言いながら頭をぽんぽん叩いてきたので、しげるは問答無用で勢いよく頭を前に倒す。
「……!!」
ちょうど鼻のあたりに頭突きをモロに食らい、カイジはふらりと足元をよろつかせた。
しげるは顎を上げ、傲然と言い放つ。
「おっさん。下らないこと言ってないで、とっとと仕度しろよ」
「もう終わってるっつうの、クソガキ」と吐き捨てて、カイジは痛みに涙の溜まった目でしげるを睨んだ。
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