犬も食わない・2(※18禁)


 体を入れ換え、今度はカイジがアカギにのしかかる形になる。
 ベッドに投げ出されたアカギの足を挟み込んで膝立ちになると、スプリングがぎしりと悲鳴を上げた。
 肩に手を置いて顔を近づけ、唇が触れる寸前でカイジは動きを止めた。
「おい。目、瞑れ」
 ぶっきらぼうな言い方に、アカギは目を細めて笑う。
「嫌だ。見ていたい。あんたからしてくることなんて、滅多にねえのに」
 平然と言い放つアカギに、カイジの声が低くなる。
「瞑らねえと、しない」
「別に、構わねえけど」
 すげなく言い返され、カイジは短く唸った。
 仕方がないので、せめて自分も目を開けたまま、カイジはアカギの唇を塞いだ。
 間近にある互いの瞳を探るように見つめながら、舌を絡めあう。
 やっていることとは対照的に、ふたりの雰囲気はまるで博打の時のような剣呑さを帯びていた。

 軽い音をたてて唇を離し、カイジはアカギの服に手をかけて上半身を露にする。
(そういや、こいつの裸見るのって、初めてだな……)
 男として羨ましさを禁じ得ない、引き締まった体躯にカイジは思わず見とれた。
 ふと視線を感じて顔を上げると、アカギが含み笑いしながらカイジの様子を観察している。
 その表情にむっとして、カイジはアカギの首筋に吸い付いた。

 強く吸い上げて痕を残していると、不意に脇腹を撫で上げられた。
 くすぐったさに、体の力が抜ける。
「……っ!?」
 カイジは慌てて唇を離し、アカギの手を掴む。
「おいっ! 勝手に手ぇ動かすなっ……!!」
 アカギはわざとらしくため息を吐く。
「なんだ。注文が多いな」
「うるせえっ……!! お前は黙ってオレの言う通りにしてりゃいいんだよっ」
 カイジの滅茶苦茶な言い分に、わかったよ、と言うようにアカギは手を下ろした。

 気を取り直し、カイジはアカギの体に舌を這わせていく。
 肩の古傷をなぞり、鎖骨を伝い、濡れた筋をつけながら下へ下へとおりていく。
 舌で辿ると、ただ見ているより筋肉の隆起がリアルに感じられる。
 きれいに割れた腹筋のかたちを確かめるように舐めながら、呼吸に合わせて穏やかに上下する腹を間近で見る。
 存在自体が奇跡のようなこの男も、自分と同じように息を吸って、吐いて、生きている。
 それがとても不思議な事のように思えた。

 へその窪みまで下りたところで急に思い立ち、カイジは逞しい胸板に耳をあててみる。
 心臓が血液を送り出す音が、とくとくと一定のリズムを刻んでいる。
 毛の生えた心臓でも音は普通のと変わらねえんだな、などとくだらないことを考えていると、カイジの体をぞわりとしたなにかが突きぬけていった。
 体が敏感に跳ねる。
「っあ、うっ……!?」
 立てた片膝でカイジの股間を嬲りながら、アカギはニヤリと笑う。
「どうしたカイジさん。口がお留守だぜ?」
「ぁ、あっ、て、めぇ……勝手なこと……っ!!」
「人聞きが悪いな。手は使ってねえだろう?」
 つるりとした顔でそんなことを言い、アカギは体を後ろへずらす。

「あっ、ばか、それ、はっ」
 裸足の爪先でズボンの上から蹂躙され、カイジの声が更に高くなる。
 隣の住人への配慮など、もはや頭からすっぽり抜け落ちてしまっていた。
 足指で器用にカイジのものの形をなぞりながら、アカギは首を傾げて笑う。
「ほら、どうした。オレを満足させてくれるんだろう?」
「はっ、マジ、やめ……ろ、って……っ」
 震える手がシーツを掻き、皺を寄せる。
 アカギは形を変え始めたカイジのものを足裏で挟み、揉みしだくように愛撫する。
 布越しの刺激のもどかしさに、カイジの腰が動いた。
「クク……、そんなに擦り付けるなって」
「っ、なっ……!!」
 無意識の行動を指摘され、カイジの頬がかっと熱くなる。

 無慈悲な足は止めないまま、アカギはカイジを諭すように言う。
「いい加減諦めて、おとなしくオレに抱かれろよ」
「くっ……、ぁ、だれ、がっ……!」
 言葉は口にするそばから喘ぎに変わってしまうが、カイジは気丈にも反抗をやめない。

 黙ったまま、アカギは足に力を入れる。
「っ、痛っ……!?」
 突如走った鋭い痛みに、カイジの体が竦んだ。
「あんたのその、往生際の悪さは嫌いじゃねえけどな」
「てっ、めぇ、きたねえぞっ……!!」
 アカギの足に、更に力が籠る。
「っあぁ、うっ……!!」
 痛みに苦しむカイジを眺めながら、アカギは愉しげに笑う。
「どうするんだよ、ほら」
 じわじわと圧迫され、カイジの顔が恐怖にひきつった。
(つ、潰される……っ!!)
「〜〜っ!! わぁったよ!! 好きにすりゃいいだろっ、この外道っ……!!」
 とうとう、カイジは捨て鉢になって叫んだ。
 したり顔で、アカギは熱を持った塊から足をのける。
「ふふ……、最初からそうやって素直にしてりゃいいものを」
 今にも噛みつきそうな瞳で自分を見据えるカイジの肩を、アカギは軽く押した。
 力の抜けたその体は、あっさりとベッドに押し倒される。
「く……っ」
 腕の囲いの中に追い詰められながら、それでもまだカイジはアカギを睨み上げる。

 いろいろと投げやったカイジの頭には、どちらが抱くか抱かれるかなど、正直もうどうでもよくなっていた。
 ただ、こんなことまで結局はアカギの思い通りにされてしまうことが、癪で癪で仕方がない。
 せめて、最後に一矢報いてやらなければ気が済まない。

 カイジは両腕をアカギの首に回すと、力一杯引き寄せて強引に口づけた。
 アカギの目がわずかに見開かれ、ふたたびゆっくりと細められる。
「ん、……っ」
 しんとした部屋に、小さな水音が響く。
 やがて、始めたときと同じような唐突さでキスを解くと、カイジは濡れた唇を乱暴に手の甲で拭った。
「お前こそ、やるからにはちゃんとオレを満足させろよっ……!!」
 乱れた呼吸とともに吐き出された挑戦的な台詞に、アカギは目を閉じ、笑った。





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