犬も食わない・1(※18禁) 初夜話。前半ちょっとだけカイアカっぽいのでご注意下さい。
たとえ裏社会に関わるものたちであっても、本気で惚れた相手との恋の手順は、世間一般のそれとなんら変わりはない。
互いの想いは確かめ合った。キスだって済ませた。
心の通じあった恋人たちが、次にすることといえばただひとつ。
「おい、ちょっと待てっ……!」
ベッドに押し倒されそうになるのを腕を突っ張って耐えながら、カイジは叫んだ。
「なんで、どさくさに紛れてお前が上みてえな流れになってるんだよっ」
「いいじゃねえか。細けえことはどうだって」
カイジの剣幕に顔色ひとつ変えないまま、アカギはしれっと言い放つ。
「全然細かくねえよっ! 勝手な真似してんじゃねえっ」
思いきり怒鳴ってから、カイジははっと口をつぐむ。
壁の薄さだけは折り紙つきの、安アパートである。
声はともかく、下手すると会話の内容までつつぬけになってしまう。
男同士の痴話喧嘩など、聞かれる方も聞かされる方もたまったものではない。
そんなことを考えている間にもアカギが体重をかけてくるので、重みに耐えきれずカイジの腕がわなわな震え出した。
「おいっ! どけよっ……!! う、腕が死ぬっ……」
抑えた声で限界を訴えながらも、カイジは絶対に押し倒されまいとふんばる。
軽く肩を竦め、アカギは一旦カイジから離れた。
ぐちぐち文句を垂れながら痺れた腕を振っているカイジに、アカギは言う。
「なら……勝負で決めるか?」
「勝負だぁ?」
なにげないアカギの提案に、カイジは眉を寄せる。
「負けたら下になってやるよ。なんでもいいぜ。麻雀でも、トランプでも、殴り合いの喧嘩でも」
「ば、馬鹿にすんなっ! そんなもんにほいほい乗せられるほど、おめでたくねえよっ……!!」
カイジは全力で却下する。
今挙げられたすべてのことで、アカギには到底勝てないという自覚はあるらしい。
「じゃあどうすんだ。このままだと夜が明けちまうぜ」
「年下なんだから、お前が下になれよっ!」
「断る。オレはあんたを抱きたい」
「……っ!!」
臆面もなく吐かれた言葉に意表をつかれ、カイジは激しく動揺する。
「と、にかくっ! お前が下だっ……!! それ以外はぜってえ、認めねえっ」
耳を赤くしてわめくカイジに、アカギは沈黙する。
かくして、かなり白けた状態で場は膠着した。
お互い、こうと決めたら梃子でも動かないとわかっているので、このままだと本当に朝までこうして睨みあうことになってしまう。
しばらくののち、先に口火を切ったのはアカギだった。
「どうしても譲る気はねえんだな」
「ったりめえだろっ」
「なんで」
「なんで、って……」
正直な話、ケツに男のものを受け入れるのが恐ろしいのだ。
なんて肝っ玉の小さいことなど言えるはずもなく、カイジはもごもごと口ごもるようにして呟く。
「お、男にはプライドってもんがあるだろがっ……」
アカギは黙って天井を仰いだ。
「わかったよ。ここは年長者の顔を立てて、オレが下になってやる」
「へっ……!? い、いいのかよ……!?」
「ただし」
意外な展開に盛り上がりを見せるカイジに、アカギはぴしゃりと釘をさす。
「やるからには、ちゃんとオレを満足させろよ。なぁ、カイジさん」
向けられた凄絶な笑みに、カイジの心を一抹の不安がよぎる。
それを打ち消すかのように、カイジは威勢よく啖呵を切った。
「当たり前だろうが……! 見てろよ。今言ったこと、後悔させてやるっ……!!」
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