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過去拍手
副官ず・1

「宮古はすごいなあ」
 四剣が一人・舞剣の副官を務めるその男は、大柄な身体を縮めるようにしながら杯を両手で抱えると、感嘆混じりに呟いた。




 都城内にある、従業員用食堂の露台の一角。
 心地好い夜風に吹かれながら小卓を囲んでいるのは、四剣各々に従う四人の副官達だった。
 あらゆる事態に迅速かつ柔軟に対応出来るよう、副官同士で情報を共有し検討する為の連絡会――という名の単なる飲み会――は、休前日である今日も滞り無く開催されているのだが。


「俺も宮古みたいに強くなりたいよ」
 益々身体を縮込ませると、舞剣の副官を務める男・広重は重い溜め息を吐く。


 この男、豪剣・樫山に次ぐ手練れの槍使いであり、威風堂々とした立派な体格をしているにも拘わらず、副官四人中一番の心配性で気苦労性。
 愛槍を片手に戦場を駆けている時は惚々とするほどの快男児振りなのだが、槍を手放した途端、情け無い表情に取って変わられしまう有り様。
 舞剣の陽気な気紛れに振り回され続け、胃が痛い毎日なのである。


「何言ってるんだよ広重、十分強いじゃないか」
 小柄な身体を卓の上に乗り出すようにし、ひょいと温野菜の皿へと箸を伸ばしなから言うのは、豪剣の副官を務める男・沢渡である。


 細剣使いであり、戦には不利と思われがちな小さな体躯を充分に生かした敏捷さは、舞剣に次ぐ速さだと言われている。
 四人中最年少であり、柔らかな薄茶色の髪と同色の大きな瞳といった可愛らしい姿に騙されがちだが、宮古に負けず劣らず気が強く、その上喧嘩っ早い。
 とは言え、豪剣の後をふわふわと髪を揺らしながらちょこまかと歩く姿は、古参の猛兵達も思わず振り向いてしまう程に愛らしく、『綺麗系なら宮古副官、可憐系なら沢渡副官』と兵士達から秘かに囁かれている今日この頃である。


「そういった意味の『強い』では無いと思いますよ、沢渡」
 薄水色の瞳を柔らかく細め、微笑みながら告げたのは、静剣の副官を務める男・氷見。


 北雪国出身のずば抜けた長身であるこの男は、若い頃には随分と苦労し危ない橋も幾度か渡ったものだったが、しかし静剣の副官となった現在では、慌てず騒がず常に穏やかな微笑を絶やさない、物静かな最年長という役割を果たしている。
 静剣と二人、詰所でのんびりと翠茶を飲む姿はまるで老人会の寄合のようであり、ある種の和み空間を形成中。
 本来は長剣使いだが、静剣の武器開発に付き合ううちに、飛び道具にも造詣が深くなりつつある。


「『宮古の上司に対する毅然とした強い態度』が羨ましい、‥‥ですよね?」
「そうそう、そうなんだよ、氷見」
 言いたい事を簡潔に纏めてくれた氷見へ、うんうんと何度も頷く広重。
「宮古って、華剣だけじゃなくて、うちの舞剣にも、びしって言うだろ?凄いなあって」
「あ、それは言えてる!宮古、誰にでもびしびしに怒るもん。凄いよね」
「‥‥別に、凄くないけど」


 手の中の杯を揺らしながら、宮古は不本意そうに呟く。
 彼にしてみれば、四剣や東の剣の、ひいては東雲国の為を想い、当然の事をしているだけなのだ。
 宮古の口喧しさは、毅然とした強さから出ているのでは無い。副官としての当たり前の責務から自然発生しているのである。


「それに、沢渡だってよく怒っているじゃないか」
「でも俺、宮古みたいに上司へは怒らないもん」
「それは、豪剣が手が掛からない方だからだよ」
「‥‥んー、確かに普段は手は掛からないけど、」
 野菜を突つく箸を止め、少し考え込みながら沢渡は首を傾げる。「――でも、陛下が絡むと全く手がつけられなくて大変だよ」
 まあ其処が可愛いんだけどねと、自身の方がよほど可愛い仕草で肩を竦めると、沢渡は氷見の顔を覗き込んだ。


「静剣も手、あまり掛からなさそうだよね」
「そうですね、少々研究熱心ですが、まあ業務に支障は無いですし」
「俺らは別に怒る必要、無いよね」
「では手に余るのは、舞剣と華剣、という事ですか」
「そういう事になるよね」


 おやおや大変だ、とちっとも大変そうで無い口調で呟きながら、沢渡は氷見の空いた杯に冷えた翠茶――明日の当直当番は氷見なので酒を飲む訳にはゆかない――を注ぐ。
「ああ、沢渡も空いてましたね。気付かなくてすみません」
「良いよ良いよ大丈夫、手酌で入れるから」
「いえいえ、ほら、杯を出してくださいよ」
「やー、すみません、じゃあお願いしまーす」
 どうぞどうぞ、どうもどうもと遣り出す、沢渡と氷見の凸凹組と。


「‥‥やっぱり宮古は凄いよなあ」
「だから凄く無いって。広重だって言えば良いんだよ」
「ええっ?俺が舞剣に?無理だよそんな恐れ多いっ」
「恐れ多いからこそ、言う時は言わないと。尊敬してるからこそ、だよ」
「うん、尊敬してるんだよなあ、俺。あんなに格好良い人、他には居ないよ」
「華剣だって、ああ見えて決める時は決めるんだ。敵わないよ」
 今一噛み合わない会話ながらも、上司への愛は人一倍な宮古と広重の二人と。


「はいはい、二人とも杯出してー」
「空いてますよ、ほらほら」
「あ、ありがとう」
「すみません、どうも」
「――では、改めて」




「「「「乾杯!」」」」




 何だかんだ言いながらも。
 結構仲の良い副官四人なのであります。



◆◇◆◇◆

本編にはあまり出てきませんが、縁の下で頑張っている?副官達、でありました。

※正式?に名前がついたので、書き換えました(2010.8.20)

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あきゅろす。
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