「華を織る」 08 「亜紀?」 「あ、す、すみません!」 飛び退く様に身体をずらされてしまい、桜木の指先からあっさりと亜紀の髪が零れ落ちていく。 ああ、勿体無い‥‥桜木の心の内の声に勿論亜紀が気付く訳も無く、慌てて懐から何かを取り出した。 「あの、俺も桜木様にお渡ししたい物があったんです」 「俺に?」 「はいっ」 これを、と差し出されたのは一枚の細幅の布。 「これは?」 「万能布です。手拭にも襟巻にも鉢巻にもなります」 「‥‥もしかして、亜紀が織ってくれた?」 「はい。あの、何色がお好きかよく分からなかったので、焦茶色にしてみたんですが」 「‥‥」 改めて桜木は、受け取った布をしげしげと見つめる。 心を込めて丁寧に織ってくれたのだろう、見るからに手触りの良さそうな布は、そのまま亜紀の心を表しているようだった。 「織人の布は丈夫でしなやかです。何回洗っても型崩れしないし、一度縛ると緩みませんし、それから」 「――勿体無いな」 「え?」 「せっかく亜紀が織ってくれたのに、勿体無くて使えない気がする」 「いいえ!布は使ってこそ布です。くたくたになるまで使ってください、その方が布も本望です」 布の話をしているうちに本職が呼び覚まされたのだろう、織師としての表情を覗かせた亜紀に桜木は小さく笑って。 「‥‥ありがとう。じゃあ、くたくたになるまで使わせて貰うよ」 「あの、俺もありがとうございます!大事にします!」 互いに礼を言い合い、そのまま笑いあった。 [*前][次#] [戻る] |