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「華を織る」
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 どん、と言う腹の底を低く揺さぶる様な音が、曲がり角の向こうから響いた。
 やがて聞こえてくる、人々の慌ただしい声や乱れた足音。空き部屋である事を確認してから発光装置――清水お手製の派手だが害の少ない物――を放り込んだ蒼川だったが、念の為に耳を澄ます。――よし、怪我人無し。


 陽動担当の蒼川は、亜紀の捕らわれているであろう離れとは反対側に館内の人々を集めるべく、先程から密かに行動していた。
 派手な音を立て、家具を倒し、光を発し。侵入者の影を充分にちらつかせながら、しかし姿を見せる事は決してせず、蒼川は部屋から部屋へと渡り歩いていた。
 移動ついでに足や肩を軽く回してみる。麻乃の献身的な看病の甲斐あってか、怪我の影響も殆ど無い。


「‥‥感謝」
 一瞬目を閉じると、東の地に居る恋しい人を思う。
 元気だろうか、ちゃんと食べているだろうか、眠れているだろうか。あの人は何かに没頭すると、直ぐに自分の事は顧みなくなってしまうから‥‥ 
「、」
 途端、此方へ駆け寄る複数人の気配を察し、蒼川は麻乃の温もりを一旦心の隅に押し遣ると、追手から逃げるべく取り敢えず手近な部屋に飛び込んだ。
 今までに覗いた部屋に比べると随分と小さく、家具も卓と椅子しか見当たらない。蒼川が入って来た扉以外にももう一つ扉があり、どうやら隣部屋への控えの様だ。
 一つの館の中に、そうそう控えの間がある部屋など存在しない。主の部屋だと思って良いだろう。



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