「華を織る」
04
『――ごめんね、宮古』
「っ、」
唐突に姉の声が耳奥へと甦り、宮古の意識は一気に現実へと引き戻された。
冷水を浴びた様に心の底が凍り付き、それとは反対に心臓は不穏な程に乱れた早鐘を打つ。
それまで病気らしい病気を何一つする事の無かった姉。しかし、勤め先の病院で流行病に流感してから命を拐われるまでの間は、ほんの一瞬の出来事だった。
その僅かの間、高熱に蝕まれた姉が掠れる声で呟いたのは、思いもよらない謝罪。
その直後に意識が途切れがちとなり、結局は最期となってしまった言葉。
あの時の潤んだ姉の目は決して発熱の所為だけでは無く、宮古の秘めた想いへと確実に向けられていた。
《はじめまして。君が宮古かな?》
初めて逢った日から何年もの間、閉じ込め言い聞かせ、宮古自身にすら誤魔化しを掛けていた感情だった。
誰にも告げてはならない漏らしてはならない、愛しい日々を護る為には完璧に葬り去るべき想いに。
姉は何時から気付き、そして見ぬ振りをしていてくれたのだろう‥‥?
「宮古叔父さん!」
ふいに明るい呼び声が響くのと同時に、宮古の背中に軽やかな重みが飛び付いてきた。
「晴海?」
首を捻りながら背後を覗き込み‥‥可愛がっている姪の姿を認めた宮古は、深沈する思考を一旦中断し優しい笑みを浮かべる。
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