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「華を織る」
02


 玉城奪還作戦を回想しているうちに、必然的に思い出したくも無い顔を思い出してしまい、宮古は微かに顔をしかめた。
 白夜から毎回発せられる大袈裟な口説き文句は、宮古からすれば傍迷惑な嫌がらせに他ならず、この時だけは「上司の側を離れない」という副官としての義務を振り切って逃げ出したくなる。
 桜木は桜木でそんな宮古の様子を面白がっている風で、白夜に絡まれて四苦八苦している宮古を眺めながら、大抵はにやにやと笑っているだけだ。


――本当に何なんだ、あの人は。


 冗談とも本気ともつかない、戯言の様な誘い文句。
 全身で拒否しつつも、宮古が白夜に対して強い態度で臨めない理由は、上司の旧知の人物である事の他に、もう一つ、その圧倒感にあった。
 滑らかに紡がれてゆく調子の良い口調とは裏腹に、空間を圧する様な隙の無い気配は宮古の動きを封じ、その場に立ち竦ませる。
 白夜と自分との実力の差が歴然である事を、改めて見せ付けられる瞬間だった。


――悔しいな。


 宮古とて「東の剣」の中では一二を争う弓の名手である。剣も並の兵士程度には扱えるつもりだ。
 しかし白夜が本気を出せば、宮古ごときでは太刀打ち出来無い事もまた、認めざるを得ない事実だった。
 白夜に抗する力を持つ桜木が居るからこそ、軽妙で長閑な遣り取りは実現しているのである。


――もし、二人きりで戦場で出会ったら。


 そんな場面を想像しかけ、戦慄に近い震えが身体の中を走り抜けるのを宮古は感じる。
 あの研ぎ澄まされた剣は、自分の頭を首を胸を、冷徹に狙うのだろうか。
 それとも命在るままに自由を奪われ、戯れの道具にされるのだろうか。
 ‥‥奴はそんな男では無いよ、と桜木は呆れるだろう。しかし力で劣る以上、その存在は何時脅威に変わるか分からない。





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あきゅろす。
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