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「華を織る」
01 ◆3◆


――姉さん。


 何時でも寂しくないようにと、小振りの常緑樹が寄り添う様に植えられた墓石の前に立ち、宮古は心の中で語り掛けた。
 その腕には、故人の好物であった杏子酒の小瓶が抱えられている。


――無事に帰ってきたよ。今回も。


 生来の超が付く程の勤勉さに華剣の副官という立場も相俟って、普段の宮古は「休暇」とは無縁の日々を送っている。
 しかし、今回の様に休日を貰った――半ば強引に押し付けられた格好ではあるが――時には、必ずと言っていい程、姉の墓参りに訪れていた。
 集合墓地へは城下の西側に広がる賑やかな商業地区を抜けて行く為、都城に籠りがちな宮古には良い気分転換にもなっているのだ。


――華剣は相変わらず強いよ。西風の奴ら、戦神を見た様な顔をしていた。


 そのくせ、風邪なんか引いてるんだけどね。
 声が出せずに情けない表情を浮かべていた上司を思い出し、宮古は肩を竦めると屈託無く笑う。
 その無邪気な所作は詰所での鬼の様な剣幕からは程遠く、兵士達がこの場に遭遇する機会があれば、驚愕しつつもその笑顔に見惚れる事に間違いない。


――あと、‥‥ああ、何でもない。


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あきゅろす。
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