[携帯モード] [URL送信]

「華を織る」
09



「貴方に持っていて欲しいのです、麻乃殿」




 麻乃の指を覆う、一見、しなやかな蒼川の指。
 舞踏かと見紛う程に優美な剣捌きを生み出す指は、しかしよく見ると、無数の傷と剣の握り跡で覆われている事が分かる。
 近くで、息が触れ合う程の距離で見て初めて分かる、その壮絶な努力。掻い潜って来た死闘。
 麻乃の様に書物を相手にする者は一生目にする事も無いかも知れない、死と隣り合わせの世界を駆け抜けてきた男の指。


 その指が、壊れ物でも扱うかの様にそっと、麻乃の手を包んでいるのだ。


「また、来ます」


 麻乃の手に切ない温かさを残したまま。
 蒼川は来た時と同じ様に、静かに窓から去って行った。





[*前][次#]

14/64ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!