「華を織る」
07
あの時の。
蒼川殿だ。
唐突に雰囲気の一変した空間に、麻乃は言葉を失っていた。
思わず蒼川を見上げると、緑の深い瞳が黙したまま見詰め返してくるだけで。
「麻乃殿?」
伸ばされてきた指先に身を固くすると、頬に掛かった一筋の髪を撫でる様に整えられた。
咄嗟に肩を竦めると、声を立てずに小さく笑われた後、宥める様に肩に手を置かれる。
流されそうになる感情と、呑まれてはいけないという理性に、麻乃は視線をさ迷わせ‥‥蒼川が後ろ手に掴んでいた緑草の束に、今更ながらに気付いた。
「あの、蒼川殿、これは」
「え?‥‥ああ、今日はこれの使い方を聞きに来ました」
結果として雰囲気をぶち壊す事になってしまった麻乃の問いに、しかし蒼川は焦る風な様子を見せる事無く、燭台の灯りに草束をかざした。
「俺の役に立つ、と言われたのですが」
「!これ、雪名残じゃないですか!」
北雪国の雪解けの谷間でしか採れない稀少な薬草の出現に、麻乃は堪らずに大声を上げる。
蒼川の手から慎重に束を受け取ると、机の上で開いたままになっていた薬草辞典を繰り、何度も眺め透かして見てみたたが、やはり見立ての通りだった。
「ゆきなごり?」
「ええ、大変貴重な薬草です。私も学舎の師が所持していた一束しか見た事が無いです。一体どこで」
「知人から貰ったのですが、どうすれば良いのか解らなくて」
「お知り合い、からですか」
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