「華を織る」
05
今度こそ鎧戸を。
この窓を開けておく理由はもう、私には無いのだから。
心の中で強く言い聞かせ、腰を上げた時。
「こんばんは、麻乃殿」
「蒼川‥‥殿」
日除け布をするりと抜けて、音も無く部屋の中へと入り込んで来た蒼川の姿に、麻乃は名前を呼んだ後は暫く黙ったまま見詰めているだけだった。
「あ‥‥あの、今日はどうしました?」
なぜ。
もう、彼が此処へ来る理由はもう無いのに。
――もしかして。
「あっ、もしかして桜木がぶり返しました?いえ、宮古殿にうつったとか?それとも蒼川殿、今度は貴方が‥‥」
思い付く限りを言い募る麻乃に、しかし蒼川は可笑しそうに笑うと首を横に振る。
「大丈夫ですよ麻乃殿、誰も心配いりません、皆元気です」
「あ、ああ、そうですか。てっきり私は」
「それとも、」
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