「華を織る」
04
「‥‥」
一つ息を吐き、麻乃は壁から身を起こす。
燭台を元の通りにそっと机に据えると、再び薬草辞典へと向き直った。
‥‥昨夜現れた蒼川は、桜木が職場に復帰した事、入れ替わりに宮古が休みに入った事を告げてきた。
『これで薬は終わりにしましょう。無理をしない限り自然に治ります』
『しかし、奴の回復力には目を見張るものがありますね』
『ええ。昔から治癒能力が桁違いに高い男ですから。いつもいつも驚かされます』
『では、これが最後ですね。ありがとうございました、麻乃殿』
『蒼川殿も御苦労様です』
だから。
彼はもう、此処には来ない筈なのだ。
「‥‥」
再び、麻乃の視線は窓へと向けられる。
頼り無げに佇む日除け布は、今の麻乃の心境を表しているようで、慌てて視線を逸らした。
――本当に、何をしているのでしょう、私は。
麻乃が繰っている薬草辞典は、古くから薬師の間で読み継がれている名本だが、古代文字が多く難解な為、国立図書館へ再編纂の依頼が為されていたものだった。
暇を見付けては徐々に読み解いているのだが、今日は全くと言って良いほど進んでいない。
――集中、しなくては。
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