「華を織る」
04
ふ、と彼の目が開いた。
顔に当たる漏れ日の加減で、今が夜明けから一刻ばかり過ぎた頃だというのが分かる。
毎日の習慣で今日の予定を頭に思い浮かべかけ、ああそうだ、と少し緊張気味の表情になる。
今日は都城へ伺う日。
帝妃からの突然の招きに、昨夜はなかなか寝付けなかったが、時間通りに目は覚めたようだ。
不眠の原因としては、降って湧いたような御召しへの興奮もあったが、遠い記憶の中の〈あの方〉を思い出したからでもあった。
流石に遭遇する機会は無いだろうと弁えているが、噂の一つでも窺えれば嬉しい。
床から起き上がり、窓を大きく開け放つ。
・・・幼い頃に彼の漆黒の瞳は視力を失っていたが、朝を感じる事には不自由していなかった。
朝食の支度、早馬の蹄音、市場のざわめき、鳥の鳴き声、風の音。
清々しい朝の息吹に耳を傾けながら、彼は窓の外の風景を暫く楽しむ。
瞳と同色の髪を揺らし、なめらかな頬に触れていく風は気持ち良く澄み、向かいの家に咲く花の甘い匂いを運んでくる。
そして、遥か前方を見上げたならば。
天帝や帝妃、そして〈あの方〉が住まう都城が聳えているはずなのだ。
――そういえば、久しぶりに見たな。
都城への想いは一時中断し、彼は先程まで見ていた夢を思い出す。
ここ最近見ていなかった、両親の夢。
久しぶりに会えた亡き二人に、彼は小さく微笑み・・・あれ?と、首を傾げる。
「何をしちゃ駄目なんだっけ・・・」
幼い頃、自分は何かを禁じられていた。
不思議に思いながらも、ひどく哀しげだった両親の表情は、幼心に強く印象に残っている。
今となっては内容までは覚えていないが、あの時自分は何を禁止されたのだろう。
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