「華を織る」
03
◆◆◆◆◆
淡い光を目指して暗がりの中を進んでいた桜木だが、やがて近付くにつれて先方にあるのが光だけでは無い事が分かって来た。どうやら誰かが灯りを掲げているらしい。
‥‥いや、誰か、ではない。
釣鐘型の小さな花をまるで提灯の様に目線の高さで掲げ持っている黒髪の少年を、桜木が見誤る訳が無かった。誰よりも愛しく何よりも大切な、桜木の想い人。
――亜紀。
声に出してその名を呼ぼうとした桜木だったが、ふと口を閉ざす。振り返り、今では随分と遠く小さな十字の様にしか見えなくなった二振りの寄り添う剣を見詰めた。
――俺で良いのか?
俺の手は、これからも剣を振るう。人を傷つけ殺める事もあるだろう。それでも良いのか‥‥?
「‥‥」
その時、今まで遥か遠くを見晴るかす様に彼方を見詰めていた亜紀が、まるで桜木の心の声が聞こえたかの様に此方を見た。
桜木と視線が合うと花が綻ぶように微笑み、そっとその手に持つ灯火草を差し出してくる。
――貴方が良いんです。
その笑顔に導かれる様に桜木もまた亜紀の方へ手を伸べ、仄かに光を放つ花に手を添えた。そのまま亜紀の手の上から包み込む様にそっと握る。‥‥温かい。
――ありがとう。
この温もりを絶対に手放すものか。‥‥強く念じる様に呟くと、桜木は掌の感触をもっと感じようと目を閉じた。
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