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「華を織る」
02



『――目が見えていたら。俺も見えていたら‥‥!』
 そして『見たい』と。もう一度この方を、この世界を見たいと亜紀に思わせてくれたのが、桜木だった。
 温かく居心地の良い場所で護られているだけの存在から、ほんの少しでも良い、大切な人達を護る事の出来る存在になりたい。
 そう強く願った時に、きっと亜紀の中の何かが変わったのだろう。揺り篭の様に優しい膜を破り、一歩前に進もうと思えたのだ。


 ――ありがとうございます、桜木様。
 心の中で呟きながら桜木の顔から視線を上げると、亜紀は枕元の小机に活けてある灯火草を見詰める。
 亜紀と桜木の出会いの発端にもなった甘い香りを漂わせるこの小さな薄水色の花は、街灯の代用として太古の昔から幾人もの道行く人達を導いてきた。
 どうか桜木様の事も此処へ――俺へ導いてくれますように。祈る様に思いを込めながら、亜紀は寝台の上に投げ出されている桜木の掌をそっと握った。


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あきゅろす。
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