「華を織る」
08
◆◆◆◆◆
ふと視線を上げた先に、丸みを帯びた小さな黒水晶が浮かんでいた。
周囲を黒い闇に覆われた中、黒水晶は桜木を励ます様に柔らかく光を点滅し出す。ああ、これは矢崎殿の中の一つだろうか、亜紀に渡した物だろうか――そう考え始めたところで、自分の胸元も何やら明るくなってきた事に気付き、慌てて桜木は懐に手を突っ込んだ。
――あ。
そうか、これか‥‥大神殿からくすねてきた水晶の欠片の存在を思い出し、そっと取り出してみる。
黒水晶に呼応するかの様に瞬きを繰り返していた水晶だったが、やがて桜木の掌からふわりと浮き上がった。そのまま暫く黒水晶の周りを愉しげにふわふわと漂っていたが、気が済んだのかゆっくりと動きを止める。
――どうなるんだ?
白黒二つの水晶はこれからどうなるのか。事の成り行きを見守っていた桜木だったが、唐突に眩く強くなった光に思わず目を閉じてしまう。伏したまま暫く後、漸く眩しさの薄れてきた気配を感じ、そろそろと薄目を開けてみた。
――え?
警戒を忘れ、思わず目を見開いてしまう。そこに浮かんでいたのは小さな欠片では無く、二振りの大剣だった。
――剣?
え?何で?どうやって?
戸惑う桜木を余所に剣は互いの距離を益々縮めると、ぴたりと寄り添う様に並び立った。
――ああ、そうか。
ふと桜木は気付く。そう言えばこの二つの剣は、例の織子の悲劇の後は一度も会えていなかったんだ。‥‥そうか、お前達も漸く揃う事が出来たんだな。漸く半身に出会う事が出来たんだな。
――良かったな。
心の中で呟きながら二振りの剣を見上げていた桜木の瞳に、再び僅かな光が飛び込んできた。幻想的な青白の灯りと共に漂ってきたのは、仄かな甘い香り。
――もしかして。
いやでも、まさか。‥‥半信半疑のまま、桜木は導かれる様にその光を目指して歩き出す。
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