「華を織る」
07
「――お待ち下さい!」
それまで沈黙を続けていた浅葱が、不意に声を上げた。
「どうか私の話をお聞き頂けないでしょうか」
深々と頭を下げる小柄な浅葱の姿に、今度は戸惑いに近いざわめきが起こる。あの偏屈なまでに孤独を好む浅葱に、一体なにが起きたのだ?
上層部が固唾を飲む様に見守る中、再び浅葱が口を開いた。――これだけは、どうしても譲れない。
「少年は連れて来るべきではないと、私は考えます」
「何故そう思う?」
「この大神殿以外に彼の居場所は無いだろう」
「此処に一生閉じ込めておくおつもりですか?」
「場合によっては、そうならざるを得ない」
「それに閉じ込めるなどと人聞きの悪い。保護だ」
「彼は普通の少年なのです、本当に普通の。どうか今までと同じように市井の人間として暮らして貰いたいのです」
「――では、他に何か良い案でもあるというのかね?浅葱神官」
浅葱と同じく周囲の呟きには今まで微動だにしなかった全神官を束ねる長は、ようやく口を開くと浅葱の方へと視線を投げる。その年老いてはいるものの慈愛と鋭敏を併せ持つ眼差しに、心底気圧されながらも浅葱は大きく一つ頷く。
「少年には強力な守護者がいます、あの神話と同じ様に。――いいえ、それ以上に強力な守護者が少年を護っています」
亜紀の自由は、私が護らねば。
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