「華を織る」
05
「今回は大事には至らなかった様だが、場合によっては一戦起こる事態もあり得たのだぞ。いやむしろその可能性の方が高かった。それに西風がそう簡単に諦めるとも思えない。少年が東雲に――市井に在る限り、その身を巡る争いが絶える事は無いだろう」
「確かに。東雲と西風の全面戦争に陥る事も有り得ますな」
「最悪の場合、四国全てが火蓋を切るやもしれぬ」
「それはいけない。これ以上、この大地を隔てる訳にはいかない」
「そうだ、争いの芽は今すぐにでも、」
取り除かなければいけない――そう言い掛けた神官だったが、不意に扉の外から響いてきた騒々しい音に言葉を止めた。
「外が騒がしいぞ」
「何事だ?」
会議室内にざわめきが広がる中、外の喧騒は益々大きくなっていき、不意に扉の直ぐ近くで何やら叫ぶ声が聞こえてきた。
「申し訳ありません、通して下さい!すみません、通して下さ――おいっ、通せって言ってるだろ!!!」
「だからここには入るなと言っている!!」
「中に入れてくれ!」
「駄目だっ、待てっ」
最初は恐縮しきりだった声音が、埒のあかない押し問答に焦れたのか強硬に押し入ろうとする大声に変わる。制止する声、抗う気配、怒声、何かが倒れる音、ぶつかり合い、呻き声、‥‥やがて。
「話があるんだよっ!」
とうとう耐え切れなくなったかの様な声と共に、弾け飛びそうな勢いで扉が開け放たれた。その勢いのまま会議室へと掛け込んできたのは二人の神官。
「――ったく、手こずらせやがって」
厳粛な場の雰囲気にそぐわない乱暴な口調で呟いたのは、赤の神官・蘇芳。黒衣のあちこちをほつれさせながらも、大した怪我は負っていない様だ。
「‥‥」
その後ろで凪いだ表情のまま淡々と一礼をしたのは、青の神官・浅葱。蘇芳とは対照的にその黒衣には一切の乱れが無い。
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