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「華を織る」
03



「親方は記憶よりも年を取ってました。爺様達はあまり変わっていませんが」
 そこまで言った後、ふと気が付いた様に亜紀は改めて宮古を見上げた。椅子から立ち上がり、その顔をじっと見詰める。
「麻乃様は、思っていた通りの方でした。優しくて綺麗で、でも凛としていて。とても素敵な方です」
「‥‥亜紀」
 唐突に真正面から褒められた麻乃は、思わず言葉を失う。その真っ直ぐに見上げてくる視線にこそばゆさを感じながらも、それではと反対に亜紀へ微笑み掛けた。


「桜木はどうでしたか?」
「‥‥桜木様、ですか」
 今度は亜紀が押し黙る番である。暫くの逡巡する様な沈黙の後、やがておずおずと言った風に口を開いた。
「桜木様は、‥‥その、昔見た時と同じくらい‥‥いえ、もっと格好良い、です」
「『憧れの華剣』ですからね」
「そ、それは、‥‥そうなんですが、でも、それだけじゃなくて、その、」


 心底困った様な表情を浮かべ、殆ど消え入りそうな声になりながらも、亜紀は心の中の想いを麻乃へ伝えようと必死に言葉を繋ぐ。
「桜木様は、桜木様だから格好良いんです。華剣様でも学士様だったとしても、桜木様は格好良いんです。桜木様が良いんです。桜木様じゃなきゃ嫌なんです」
「‥‥ありがとう、亜紀」
 幼馴染を肩書きに因らずただその為人を以って慕ってくれる少年に対し、麻乃は心の底から礼を述べた。


「あの、それじゃあ、俺、桜木様の処へ行ってきます」
「私も後から行きますね」
「先生、色々と本当にありがとうございました」
 改めて深々と頭を下げる亜紀に対し、医師はいやいやと苦笑しながら手を振る。
「私の方こそ貴重な経験をさせて貰ったよ。そして多くの人に言われ続けてきたと思うが、私からも改めて言わせて貰おう。‥‥見える様になって本当に良かった」
「はい!ありがとうございます!」
 今度は満面の笑みを浮かべながら再び深く頭を下げた亜紀は、そのまま失礼します!と踵を返すと、廊下へと続く扉を開けた。
 向かう先はただ一つ、今も静かに眠り続けている愛しい人の許へ。



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