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「華を織る」
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「はい、もう良いよ」
 膝を突き合わす様にして向い合せに座っていた医師から発せられた言葉に、亜紀はほっと肩の力を抜いた。
「視力はかなり安定してきましたね。色の認識も正常だし、多分、我々と同じ様に見えている筈だ」
「‥‥本当に見えているのですね、亜紀」
 医師の斜め後ろに座り診察の様子をじっと見詰めていた麻乃は、改めて亜紀の顔を眺めながら感慨深げに呟く。


 亜紀が毎日の様に都城を訪れるのは、桜木の見舞いの他にも理由があった。虹が別れ際に蒼川へと告げた「本当は見えるらしい」と言う台詞を聞いた麻乃が、精密な検査を詰所の医師に依頼したのだ。
 医師の方も亜紀が直面している稀な症状に知的探究心が湧き上がったらしい、医師仲間から取り寄せた最新器具を利用して丹念な検査を何度も行い、今日がその最終日であった。


「機能的には異常は見当たりませんでした。事故後の動揺や喪心など、精神的な理由で一時的に視力を失う場合がありますが、貴方の場合、その『一時的』が十年続いたとのでしょう」
「では、何かその‥‥奇跡が起こったとか、そう言う事では無いんですね?」
「ええ。随分と珍しい症例ですが、有りえない事ではありません」
 若干遠慮がちに「奇跡」という言葉を使った麻乃に対し、医師はあっさりと否定を述べた。
「‥‥そうですか」


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