「華を織る」
09
◆◆◆◆◆
「亜紀は今日も見舞いか」
工房・織人では、今日も変わらず老織師達が織機に向かっていた。
「華剣様はまだ眠ってらっしゃるのかのう?」
「せっかく亜紀も無事に戻って来たと言うのに‥‥のう」
「しかも目も見える様になって‥‥のう」
「怪我の功名と言っても良いかもしれんのに‥‥のう」
目と手は年齢を感じさせない速さで布を織りつつ、口は年齢そのままの長閑さで言葉を紡ぎながら、老織師達は会話を続ける。
「怪我の功名とは、また随分と強引な論法ですね」
店番をしながら聞くとは無しに聞いていた波瀬が肩を竦めながら諌める様に呟くが、無論気にするような彼等では無い。
「早く二人揃って顔を見せに来てほしいものじゃのう」
「まだ正式に紹介して貰ってないからのう」
「そうじゃそうじゃ、いくらあの華剣様でも亜紀の恋人となれば話は別じゃ」
「この爺達がそのお人柄をとっくり見定めてやろうぞ」
その華剣様こそ亜紀の窮地を救ってくれた大恩人なんですがね。内心で突っ込みつつも、新たに来店した客に対応すべく波瀬はいらっしゃいませ!と声を上げる。
「ああそうじゃ、亜紀の部屋に鏡を置かねばのう」
「そうじゃそうじゃ、もう目が見えるのじゃから」
「亜紀用の灯りも新しく用意せねば」
「おお、灯りと言えば、大通りの小間物屋に良い掘り出し物が出ておったぞ」
どこまでも尽きる事無く続いて行く老織師達の会話を背中で聞きながら、波瀬はいつまで経っても慣れない接客に一人奮闘している。
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