「華を織る」
02
首筋の手当ての途中である麻乃に至近距離から見上げる様に見詰められ、こんな状況だと言うのに蒼川は密かに胸の奥を高鳴らせる。しかし麻乃の方はと言うと、心ときめかせる余裕は無い様だった。
「‥‥本当に、貴方は‥‥」
暫しの沈黙の後、麻乃の口から出たのは溜息混じりの呟き。その後は如何にも言葉にならないらしく再び口を閉じると、視線を逸らし無言のまま消毒を続けて行った。
「麻乃殿、もしかして怒っています?」
「ええ」
「それも、物凄く?」
「ええ、物凄く」
「‥‥」
ことごとく頷かれ、二の句が継げない蒼川。ええと、と言葉を探しているうちに麻乃の手当ては終了した様だった。蒼川としては珍しく悪戯を仕掛ける間も無くあっさりと面前から去られてしまい、どことなく戸惑い気味にその背中を目で追う。
「あの、麻乃殿、」
「貴方は本当に、無茶ばかりして」
「‥‥すみません」
ここに居たり漸く謝罪を述べていなかった事に気付いた蒼川は、潔く頭を下げる事にする。桜木を助けに行った事に対して謝る気は全く無かったが、麻乃に心配を掛けたのもまた事実だった。
麻乃とて蒼川の強さを微塵も疑ってはおらず、無事に帰ってくると信じている。しかし、実際にこうやってその怪我を目の当たりにすると、良からぬ想像をしてしまうのだ。
もし彼が大怪我を負ったら。もし彼が捕えられたら。もし彼がもう二度と‥‥
「――でもきっと、貴方がこうやって看病してくれると思っていましたから」
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