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「華を織る」
05


「いいや、結構」
 ‥‥がしかし、蒼川の方が若干早かった。素早く杯を掴むと冷め切った翠茶を一息に飲み干し、ほらよと虹へと投げて寄越す。
「なかなか市場には出回らない、貴重な茶葉なんですけどね」
 杯を器用に両手で受け止めた虹は、温かいままで飲んで欲しかったのですがと残念そうにつぶやいた。
「うちの女神は腕が良くてね。そこら辺で売ってる普通の茶葉でも、そりゃあ美味しく淹れてくれるのさ」
 だからさっさと帰って、淹れて貰う事にするよ。――そう言った蒼川は、これまでとばかりに椅子から立ち上がった。虹の方へ改めて全身を向けると、流れる様に優雅な一礼を贈る。
 そのまま手近な出窓へと歩み寄るとすらりと開け放ち、音も無く窓枠へと飛び乗った。


「それでは失礼致します、閣下」
「ああ、最期に一つだけ」
 今まさに飛び降りようとしている蒼川の背中へ、虹は思い出した様にのんびりと声を掛けた。
「その小鳥、本当は見えるらしいですよ?」
「え?」
 流石の蒼川も一瞬、虹の言葉の意味を理解出来なかったらしい。訝しげな表情を浮かべた途端、扉を叩くくぐもった音が響いた。


『将軍、いらっしゃいますか?』
「、」
 廊下からの声に、蒼川はそれ以上の追及を諦めたらしく、ひらりと宙へと身を躍らせた。それとほぼ同時に虹の部下達が扉を開け入室する。
「失礼します。申し訳ありません、未だ賊の身柄を確保出来ずに‥‥」
「出て行ったよ」
「は?」
「其処の窓から。たった今」
「‥‥」



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