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「華を織る」
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 その日、彼は何時もの様に門の横で仁王立ちとなり、門番の任に就いていた。
 彼の主人に当たる人物は西風ではかなり上位の要人ではあるが、彼の持場は閑静な住宅街の中に佇む私宅である。主人には他に家族も居らず、また一日の大半を政所で過ごす事が多い為、私宅の警備は比較的緩やかな体制が取られていた。
 とは言え、世の中には様々な人間が居る。国民に人気のある将軍であるからと言って――いや寧ろ人気がある為に――想定外の行動を取ろうとする輩がごく少数ながらも存在した。
 先日も「どうしても孫を嫁に貰って欲しい」と言う老婆が門の前に居座り、同僚達と困り果てたものだ‥‥数刻の説得の後、丁重にお帰り願ったが。


 すでに暑さは無く、さりとて寒さもまだ身に沁みる程までは迫って居ない、一年で最も過ごし易い時期。
 ともすれば眠気を誘う長閑な陽光に抗いながら、彼は人気も疎らな昼過ぎの往来を眺めていた。
 先刻、職場から戻った主人はまだ在宅中である。朝、一旦屋敷を離れると大抵は夜中まで帰宅する事の無かった主人であるが、最近、まだ日の高い時分にこうやって私宅に立ち寄る事が増えてきた。
 何時からだろうか、と彼は重心を右足から左足へと乗せ替えながら考える――ああそうだ、離れに客人が逗留する様になった頃からじゃないか?何か積もる話でもあるんだろうか。


 ‥‥そこまで考えたところで、ふと彼の視線の端に人影が入り込んで来た。
 身体は極力動かさず僅かに顔を向けると、一人の年若い女性である。頭から覆うゆったりとした外套を被ってはいるが、女性にしてはやや長身ですらりとした身体付きをしている事は、容易に見て取れた。
 僅かに覗く頬から顎にかけての輪郭は、その全容の美しさを期待するに十分な滑らかさだ。



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あきゅろす。
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