「華を織る」 06 「‥‥その心理的な抑制、と言うのは何なのですか?」 「具体的に何、とはまだ分かりませんが、視界を閉ざしてしまう程です。余程恐ろしい物を見たのか、誰かに強く強制されたのか。何方にしろ彼自身がその抑制を解かない限り、目は見えない儘です」 「外から働きかける事は?」 「可能ですが、慎重に行わなければ余計に悪化する恐れもあります。今は視力だけですが、最悪の場合、聴力や呼吸器にも影響を及ぼすかもしれません」 「‥‥」 「人の心と言うのは、我々医師にとってもまだまだ未知数です。治療には万全を尽くしますが、万が一と言う事態も覚悟頂く必要があります」 「‥‥分かりました」 取り敢えず今日は報告を受けるのみとし、今後の方針についてはまた後日相談すると言う事で、一旦医師にはお引き取りを願い。執務室へと戻った虹は、改めて手元の報告書を捲り始めた。 「‥‥」 見えるのだ、あの少年は。 本当は、見えるのだ。 ‥‥もし、見える様になったら? 「織子の力は、一体どうなる‥‥?」 呻く様に呟いた後、暫くは身動ぎもせずに沈思していた虹は、やがて腹心の部下を招くべく家令を呼んだ。 <第十章 了> →あとがき [*前][次#] [戻る] |