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「華を織る」
01 ◆6◆
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 数歩前で扉が開く音と共に、「こちらへ」と促す白夜の声が聞こえた。
「‥‥」
 一旦静かに息を吐いた亜紀は、息を吸う勢いに合わせて首筋を真っ直ぐに引き上げる。
――負けてなるものか。
 訳が分からないままに無理矢理連れて来られたんだ、絶対に負けてなんかやるものか。心の中で言い聞かせる様に一言呟くと、強く拳を握りながらゆっくりと扉をくぐった。


「初めまして、亜紀。手荒な真似をして悪かったね」
 やがて耳に聞こえてきたのは、予想外に明るく闊達な声だった。亜紀よりは年上だが、桜木よりは幾らか若いのではないかと思われる、よく通る心地の良い声。
「‥‥いやそれとも、『お帰り、亜紀』と言うべきかな?」
「、」
 何事も聞き漏らすものかと全神経を耳に集中していた亜紀は、言い直した声が僅かに笑みを含んでいる事を聞き逃さなかった。『お前の全てを知っている』と言わんばかりの余裕がほんの微かだが透けて見える。
――落ち着け。
 かっと上りかけた感情を必死に抑え込む。拳を握り直し、小さく呼吸を整え――やがて亜紀は、声の聞こえた方向へと真っ直ぐに視線を向けた。殊更丁寧に頭を下げる。


「お初にお目にかかります、西風の方。私は東雲の織師・亜紀と申します」
「ああ、これはすまない、自己紹介が遅れたね。私は虹。‥‥何故、西風の人間だと?」
「今までに何人かの声を聞きましたが、皆、西風の訛りがあります。それに貴方が仰ったじゃないですか、『お帰り』と」
 慎重に、揚げ足を取られない様に一言一言確認しながら、亜紀は言葉を続ける。「――確かに私の両親は、西風の生まれですから」



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