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「華を織る」
05




「‥‥大丈夫ですよ」
 やがて顔を上げた麻乃は、館長へ向かいしっかりと頷いた。
「亜紀は大丈夫です。また直に来るはずです」
「そう‥‥、それなら良いのだけど」
 麻乃の意を決した様な表情に何事か言い掛けた館長だったが、心の内に留める様に押し止めると穏やかに微笑む。
「今度、二人で私の部屋へ翠茶を飲みにいらっしゃい。美味しいお菓子を用意しておきますから」
「はい、必ず」


 頷く麻乃の肩にそっと手を当てると、館長は少し離れた書棚の前で座り込む司書の許へとゆっくりと歩み去って行った。
「‥‥」
 ――そう、大丈夫。
 もう一度、麻乃は心の中で繰り返す。
 亜紀の一番大事な人と、私の一番大事な人が、迎えに行ったのだから。
 この国で、いやこの大陸で一番頼りになる人達が動き出したのだから。
 だからきっとまた、あの明るい笑顔を浮かべながらこの図書館に来てくれる筈。


『麻乃様!』
 嬉しそうに自分の名を呼ぶ亜紀の声を思い浮かべながら、麻乃は机の上に置いてある本へと目を遣る――あの日、亜紀の笑顔と共に返却されるはずだった本だ。



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