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「華を織る」
04


 蒼川の深い緑色の双眸が、じっと麻乃を見詰めて離さない。
 ああ、この人は何と綺麗な色の瞳をしているのだろう‥‥こんな場面だと言うのに、全く関係の無い事を麻乃は頭の隅で考える。
 ――人の縁とは不思議な物ですね。
 国立図書館の奥深く、日々の大半を書物と共に過ごす麻乃と、群島出身者の血を引き、誰よりも華やかに剣を振るう蒼川。
 水と油の様に正反対で何の接点も無かった二人が、いつしかとても近しい存在となり、こうして身を寄せ合っているのだ。
 その仲立ちをしたのは桜木であり、また桜木と亜紀の仲立ちをしたのは、麻乃自身なのである。縁が縁を呼び、新たな関係が紡ぎ出されてゆく。


 桜木にとっては恋人であり、麻乃にとっては大切な来館者である亜紀。しかし蒼川はと言うと、殆ど面識の無い間柄である。「関係無い」の一言で突っ撥ねる事も可能だった。
 だが蒼川にとっての桜木は、命を預け合う事が出来る戦友なのだ。その窮地を救う事はごく自然の、呼吸の様に当たり前の事なのだ。
「‥‥分かりました」
 やがて麻乃は決意した様に頷いた。
「私の知り得た事をお話します。‥‥ただし、」


 そこで麻乃は一旦言葉を切ると、蒼川の長い銀髪をそっと引いた。「――ただし、全員で必ず無事に帰ってきて下さい。良いですね?」
「勿論です」
 約束しましたよ?と見上げる麻乃へ、蒼川は力強く頷いたのだった。





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あきゅろす。
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