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「華を織る」
02



 では大事に取り扱わなくてはいけませんね。館長と言葉を交わしながら、麻乃は内心ほっと安堵する。
 何かと亜紀の事を気に掛けてくれている館長の事だ、最近顔を出さない事を尋ねられたら上手く嘘を吐く自信は無かった。
「ああ、それから、」
 お預かりしますと寄贈本の目録を受け取った麻乃に対し、館長はついでの様に言葉を続ける。
「亜紀なんですが、最近来ませんねえ」
「‥‥そうですね」


 やはり気付いていた――咄嗟に目録を捲る振りをして視線を下げた麻乃は、若干身体を硬くしながら次の台詞を待ち受ける。
「工房が忙しいのかしら。風邪でもひいて無ければ良いのだけれど」
「‥‥」
 そんな麻乃の様子に気付かないまま、どうしたのかしらねえと首を傾げる館長。
 返事に窮したまま黙りこくっている麻乃の脳裏に、数日前の出来事が不意に蘇ってきた。






「‥‥え?」
 膝の上で丸くなる琥珀の艶やかな毛を撫でながら、麻乃は傍らに座る蒼川の顔を見上げた。
 つい先程まで、琥珀との壮絶な膝枕争奪戦を繰り広げていた蒼川だったが――そして見事に敗北した彼は、止む無く麻乃の左脇にぴたりと寄り添って座っているのだが――その口から意外な問い掛けが発せられたからだ。
「貴方は知っているのでしょう?桜木が何処へ行こうとしているのかを」
「‥‥」


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あきゅろす。
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