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「華を織る」
01 ◆5◆
◆5◆


 窓の外には眩い光が溢れていた。
 一年を通して温暖な気候に恵まれている東雲だが、その中でも熱くも無く寒くも無いの時期が一番過ごし易いと言われている。
 木々が一斉に芽吹く様な華やかさは無いが、全ての物があるべき場所へ収まっているかの様な落ち着きのある季節。
 人々の表情にもどことなく穏やかな微笑が浮かんでいる中、麻乃は一人、黙々と机に向かい作業を続けていた‥‥否、続けていなければ、余計な事を考えてしまいそうだった。


「‥‥」
 誰にも気付かれない様にそっと、小さく溜息を吐く。
 自分が気を揉んだところで如何にもならない事ぐらい、麻乃とて分かっている。全てを彼等に託したのだ、後は信じて待つしかない。
 分かっている、分かっているのだが‥‥


「麻乃司書」
 何時の間に近くに来ていたのだろう、傍らに佇む館長から穏やかに名を呼ばれ、はっと麻乃は我に返った。
 動揺が表情に出ない様に気を付けながら、ゆっくりと顔を上げる。
「はい、何でしょう?」
「今朝、寄贈本が届きました。こちらの分類もお願いします」
「分かりました」
「亡くなられたお父様の遺言で、娘さんが寄贈下さったそうです」
「そうなんですか」



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あきゅろす。
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