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「華を織る」
06




◆◆◆◆◆


 こつこつと、一つの足音が近づいてきていた。
 間違いない、この足音も兵士の物だ。等幅で規則正しく、響いているのにどこか物静かな足音。
「‥‥」
 負けてなるものか――心の中で呟きながら、亜紀は掌を強く握ると扉のある方へと顔を向ける。
 俯くな。怯えるな。何があっても退くな。
 落ち着いて探せば、絶対に何処かに隙はある筈だ。それを見逃しちゃいけない。


 念じる様に心の中で言い聞かせていた亜紀だったが、扉の開かれる音にもう一度拳を握り直す。
「初めまして、亜紀殿」
 やがて掛けられたのは亜紀の想像とは異なり、穏やかな声音だった。
「私は白夜。まずは手荒い招待になってしまった事をお詫びしたい」
「俺に何の用ですか?何故、こんな事をしたんですか?」


 囚われの身にも係わらずきつい眼差しで見据えてくる亜紀の黒い瞳に、ふと白夜が微笑む。
「あいつ、趣味が良いな」
「え?」
「いえ、こちらの話で。――今から我が主から貴方に謝罪と、とても重要な話があるのだが聞いて頂けるかな?」
「‥‥聞きたくなくても聞かなくてはいけないんですよね」
「物分りが良くて助かるよ。‥‥説明は此方で。我が主がお待ちだ」


 先導する様に亜紀の腕を取ろうとした白夜だったが、その手を亜紀は鋭く振り払う。
「一人で歩けます」
「それは失礼」
 再び面白そうに微笑む白夜の気配を感じながら、亜紀は改めて強く自分の拳を握り締めた。



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