「華を織る」 04 「‥‥上手くいきましたね」 国境の関所を超え十分な距離を稼いだところで、矢崎が御者台から後ろを振り返った。 「ええ、ありがとうございました」 木箱の蓋を開けながら頭を下げたのは、八重――もとい宮古である。長髪の鬘を邪魔そうにかき上げると、矢崎殿のおっしゃった通りでしたねと感心しながら頷いた。 「私を見付けた後は、他の荷物には全く興味を示しませんでした」 「予想通りの処から予想通りの物が見つかると、人は余所を探しませんからね。ああ言う時はわざと『見付かった』という形を取った方が良いんですよ」 「その上で、これまた予想通りの人情話を持ちかければ良い、って訳か」 そう言いながら無造作に転がされていた麻袋から這い出てきたのは、舞剣・蒼川である。無機物の様に微動だにしなかったせいで身体中が凝り固まっているらしい、肩や首をしきりと回している。 『――おい、いい加減出てきたろどうだ?』 御者台に座っていた桜木が唐突に声を上げたのは、都城を後にし馬車が街道を順調に走り始めた頃であった。脈絡の無い言葉に何事かと戸惑う面々の背後から、小さな笑い声が聞こえてきたのはその直ぐ後である。 『!』 弾かれた様に、声が聞こえてきた辺りの荷物へと手を伸ばす宮古。その指先を、麻袋からにょきりと出てきた大きな手が掴んだ。 『何だ、気付いていたなら最初から言ってくれよ。人が悪い』 『舞剣??』 [*前][次#] [戻る] |